法 話

手を把って共に行く
書き下ろし

大分県 ・法雲寺住職  竺泰道

7月の雨上がり、運転しながらラジオを聞いていると、「私の作文コンクール」の優秀作品の朗読が流れてきました。なんとなしに聞いていますと大変感銘を受けて心に響いてまいりました。
 玖珠中学校3年繁田実奈さんの「希望を有難う」という作文です。
 

「絶対できん」これは私の口癖。でも今は、その口癖の回数も減りました。今までの私は何に対してもマイナス思考。その理由は私の左手。私の左手は皆と同じように動きません。
myoshin1507b.jpg 14年間、何度も障害のことを嫌だと思ってきました。障害を持っていることで周囲の目を気にしていました。中学生になってからは、その思いが更に大きくなって障害を持っている自分が嫌いでした。障害があることで皆と同じことができないということを受け入れたくありませんでした。「生まれつきの障害」だけど、友だちに混じって思いっ切りやりたい事があるのに、それができない辛さは、私にはとても大きな悩みでした。左手を使うたびに左手に八つ当たりして自分を責めました。そんな時は何に対しても「絶対できん」とつい言ってしまうのです。本当は、誰かにこの苦しさから救って欲しいと心の中では思っているのに諦めている自分がいました。
 14年間、左手が治ると信じてやっていたリハビリが、実はやっても「治る可能性は少ない」ということを私は最近知りました。きついリハビリにも耐え、身体の左側に打たれる何本もの注射にも耐え、少しでも治るように私は本当に歯を食いしばって頑張ってきました。だけど、やっても治らないという事を宣言された時、私は自分の将来に希望が持てなくなりました。今でもできない自分に腹が立ち、自分を責めてきたのに、たったひとすじの希望も消え、這い上がれないどん底に突き落とされた気分でした。
 そんな気分の中、私は職場体験に行かなければなりませんでした。職場体験当日、私はそこで、ある人に出会いました。「私、障害者なんです」と笑顔で私に自己紹介してくれたその人は、病気で倒れて左手と左足が動かなくなったそうです。(中略)
 私より重い障害なのに、その人は「片手だけでもやれることはやる」と言っていました。大変だけれど今の自分を受け入れて「やろう」という強い意志を感じました。でも自分にはそれができていません。障害を持っている自分が嫌だとか、できない自分が嫌だとか、できない事ばかりに目を向けてできる事を考えようとしていませんでした。
 でもその人の明るい笑顔に私も無理とかやりたくないとか思わずにダメでいいから何でもやってみようと思いました。このときから、私の世界が変わったように感じました。(中略)
 人との出会いによってマイナスの考えでもプラスに変えることができる。自分から何かをしたいという気持ちも芽生える。私の荒れた心を耕し、私を変えてくれた職場体験の出会いを私は心の支えとして生きていきたいと思います。「私、障害者なんです」といつか私も笑顔で言えるように。

  人との出会いによって考えが変わり人生も変わってきます。禅の言葉に「手を把って共に行く」という言葉がありますが、地域は組織でのボランティア活動も盛んになりました。健常者や高齢者、障害者が共に生活できる生活環境をいろんな方々のご縁を頂きながら共に助け合って生きていく。私一人では生きてはいけない世の中です。自分のできる事で何か社会のために尽くしてみませんか。