法 話

看脚下
書き下ろし

愛媛県 ・観音寺住職  山崎忠司

myo_1906b_link.jpg 梅雨入りをしている所も多いと思います。つゆを黴雨、カビの雨とも書くように、しとしとと降る長雨は、食品を腐らせ部屋にカビを発生させ、体に害を及ぼすので私は嫌っていました。
 しかし近頃は、いつもより多くの雨が降ります。いつもの倍ほどの雨が降る季節になったから梅雨と感じ、倍雨を「つゆ」と考える皮肉な人もいるでしょう。
 湿度の上がるこの季節、雨は降りますが室内はエアコンなどで調整され、長雨に不快さを感じません。この快適さが気候変動や豪雨をもたらしているのかもしれません。

 禅の教えは、今ここで自分が何をするか...... それを気づかせたいが為に、お寺に入ると玄関に看脚下と書かれた板などがあります。「履物をそろえましょう」と......。
 これは、五祖法演禅師と弟子3人が歓談し、部屋を出ると一陣の風に灯りが消え、暗闇になってしまいました。そこで師匠が今の思いを示せと......。
 先の2人が、動揺のない心境を示したのに対し、3人目の圜悟克勤禅師が「看脚下」と云われたのです。この答えを師匠は良しとされました。外に求めず、まず足下を看なさいと......。そこから次の一歩が始まるのです。

 昨年の梅雨明け頃、宇和島は豪雨災害に見舞われました。被災者が頑張り、周りが手をさしのべ、土砂崩れの被害がひどかったミカン農家も着実に復興をなしています。
 テレビでは被害の甚大さを訴えていましたが、私が住んでいる地域は線上降水帯から少しずれていたため被害は軽微で、現状を実感できないでいたのです。
 そんな時、社会福祉協議会に勤める友人がボランティアの受け入れと派遣先の調整に右往左往している話を聞き、やっと重い腰を上げボランティアに行きました。知らない人たちとグループ組がなされ、被災者宅へ派遣されました。そこは自衛隊も入っている地域で、私たちは床下いっぱいに流れ込んだ泥を出す作業を行なったのです。
 休憩になると被災者がミカン片手に挨拶に......。話していると「私の園地は表彰されたこともあるんだよ、今年もおいしいミカンを届けるから」と......。避難所から通い、家の復興もままならない人が、もうミカンの未来、地域の将来を考えていたのです。被災した当初、お先真っ暗だった人が前を向いている。まさに「看脚下」。今ここで自分ができることを考え、心定まったからに違いありません。
 昔と気候が変わりつつある今、災害が起こりにくい社会にするために、私たちは自己を振り返り、地球環境に優しいことに一歩を踏み出したいものです。