法 話

師走 時不待人
書き下ろし

岡山県 ・少林寺住職  華山泰玄

 早いもので今年もあと、ひと月となりました。
 12月を師走と呼ぶ由来に、師(僧侶)がお経をあげるために、東西を走り回る月と解釈するのでこの名が起きたという説があります。
 僧侶だけでなく、12月を迎え忙しく走り回られている方もおられることと思います。私自身は年内にしなければならない用事に追われ、もっと早くから準備をすればと自責の念に駆られています。古人が「無常迅速 時人を待たず」と示されているように時間の経過は人の都合に関係なく流れていきます。

 師が走るということで、先日、私事ですが地元のマラソン大会に出場いたしました。友人に誘われ渋々、人生で初のフルマラソンに臨みました。5月にエントリーを済ませていたのですが、まさか本当に出場するとは思わず、練習をする気が起きないまま夏を迎え、暑いから涼しくなってからと自分に言い訳をし、練習を始めたのは秋の御彼岸が明けた頃からと、約1ヶ月だけ練習をしました。

 本番当日、制限時間内に完走という目標を立てスタートしました。20㎞までは快調に進みましたが、そんなに甘くはありません。少しずつ脚が痛くなり、足取りが重く、走る速度が遅くなり、快調に走っている時には気にならなかったチェックポイントでの制限時間を示す時計が気になりだします。30分以上あった貯金も少しずつ無くなり、疲れと足の痛みでフォームが崩れていくばかり。頭の中で、こんなことならもっと早い時期から練習をすれば良かったという反省と、もうリタイアしたいという思いが駆け巡ります。
 それでも共に走る友人や沿道の方々の声援を受け、足を前へと進めます。37㎞を過ぎ足の痛みも限界を迎えて、呼吸も乱れ、制限時間が迫り、気持ちが焦り、心が折れそうな私を見かねて、友人から「少し呼吸を調えよう」と提案されました。少し立ち止まり、屈伸などをして体を調え、大きく深呼吸をし、背筋を伸ばして呼吸を意識しながら歩いてみました。時間を気にせず、姿勢と呼吸を意識しながら1㎞ほど歩き身体と呼吸を調え、再び走りだし、おかげさまで制限時間内に完走することができました。

myoshin1712a_400.jpg 時は常に進んでいます。人の都合を待ってはくれません。考えてみれば私たちは常に時間に追われているように思います。仕事や用事などの人が定めた制限時間もあれば、いつ訪れるか分からない生命の終わりにも追われています。
 流れ行く限りある時間の中で、もっとこうしておけばと過ぎ去った時間を後悔し、まだ来ぬ制限時間が気になり、今を苦しみ悩む時、また何かと用事に追われ気忙しくなる師走のこの時期に、静かに坐って身体と呼吸と心を調えてみてはいかがでしょうか。