法 話

蓮の花
書き下ろし

大分県 ・長福寺住職  宇都宮玄秀

 いつかは蓮の花を咲かせたいと念じていたら、信者さんから株分けをして頂いた。睡蓮鉢に泥を詰め細い蓮根株を埋め込み、球肥を施して水を張り、五鉢の蓮池ができた。
 ひと月ほどで芽を出し、黄緑色の葉が開いた。同時に数本の茎が空に伸び、日に日に葉を広げていく。
 雨の季節には、濃い緑の葉の中心に雨滴が集まり、それはまるで直径3センチほどの水晶玉のように透明に輝いている。その頃、小指の先ほどの蕾を持った茎もまっすぐに伸びてくる。
 梅雨の中に、薄桃色の蕾が幼子の合掌のように膨らみ、やがて花開く。花色は次第に白くなり、先端だけに赤味を残す。その姿は、ほんのり酔ったお妃の顔のように例えられる。
 花は早朝に開き午後3時頃には閉じる。それを3回ほどくり返すと、4日目には散り始める。お香のような香りがし、西方浄土の極楽には色とりどりの蓮池があると信じられている。『阿弥陀経(あみだきょう)』には、
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極楽の池には車輪のごとき蓮花の花咲き、
青き花は青く光り、黄色き花は黄色く光り、
赤き花は赤く光り、白き花は白く光る。

とある。また、『維摩経(ゆいまきょう)』には、

高原の陸地には蓮花は生えない。
汚泥の中からこそ蓮花は咲く。

とある(どちらも意訳)。 

 娑婆に咲く蓮花が汚泥の中から美しい花を咲かせるように、汚濁に満ちた我が心の中ではあるけれど、それを肥やしとして見事な花を咲かせたい。この私の煩悩を錬磨して、心中に安楽地を得たいと念じる。蓮の花を見ていると、素直にそう思うのである。