法 話

家族をいたわるやさしい言葉 これ家庭円満の秘訣(ひけつ)
書き下ろし

神奈川県 ・東学寺住職  笠龍桂

ren_2007b_link.jpg 新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言による自粛で、多くの家庭で夫婦や親子が長時間の接触を体験しました。より一層絆を深めた家庭もあったでしょうが、中にはコロナ離婚に発展してしまった家庭もあると聞きます。その原因は相手を思いやる「心」が少なかったのではないでしょうか。
 解剖学者の養老孟司氏が次のように語っています。「人間には都合のよくない新型コロナウイルスも多様性の一つ。登場してしまったからには、共存するしかない」と、さらに「世の中も自然も、思うにまかせぬものですから、起こったことはしょうがない。その結果をいかに利用し、生き方を見直すかで、先行きがちがってくる」と指摘されていました。この「生き方を見直す」機会にするということが大切だと感じました。

 私は、今まで当たり前だと思っていた三度の食事の後に、「おいしかった」の一言を添えるようになり、さらに日に二度は皿洗いをするようになりました。これは、全体的に仕事量が減ったので、その分少しはお手伝いや感謝の心を伝えたいと思ったからです。すると、ずいぶん家庭内の空気も温かいものに変わったと実感できました。コミュニケーションや言葉は大切だなと思います。
 しかし、よかれと思って言った言葉や、励まそうと思って言った言葉でも、相手の取り方はいろいろです。例えば「がんばれ」と言っても、「もう充分がんばっているよ」と腹を立てる人もいます。むずかしいですね。
 でも、どれだけ言っても悪くとられない言葉があります。それは、「ありがとう」という感謝の言葉と、「おつかれさま」というねぎらいの言葉です。これこそ、まさに家庭円満の秘訣の言葉です。

 お釈迦様は「心施(しんせ)」の大切さを説かれました。この「心施」という、もといらずの施しには、慈悲の心で接して心からの感謝とねぎらいの言葉を伝えるという意味もふくまれています。
 心理学によると、人間には「返報性の原理」があるそうです。それは、人には自分にされたことをそのまま、相手に返そうとする心理傾向があるというのです。自分のほうから心がけて、感謝の言葉やねぎらいの言葉を言うと、相手も返してくれるようになります。ぜひ、家庭内で「ありがとう」「おつかれさま」の言葉が行き交うような、明るい良い関係を築いて下さい。
 今回の新型コロナウイルス感染拡大問題をきっかけに、今一度生き方を見直し、社会の一番小さな単位である家庭から、このおもいやりの心が拡大していけば、何もかもが悪いことばかりではなかったと思います。

 「たった一言が人の心を傷つける たった一言が人の心を温める」