法 話

西日本豪雨に際して
書き下ろし

岡山県 ・報恩寺住職  蘆田太玄

rengo_1810b.jpg 2018年は過去に類を見ない災害の年になってしまいました。まず初めに本年7月に起きた西日本豪雨をはじめとする種々の自然災害において被災された方々には心よりお見舞申し上げます。私が住職をしております報恩寺はさきの西日本豪雨において甚大な被害のありました岡山県倉敷市真備町にあります。西日本豪雨以降には各方面より多くの心配の声をいただきまして大変有難く、この場をお借りいたしまして深く感謝申し上げます。
 真備町の現状はおおよそ報道にて伝えられている通りですが、報恩寺は幸運なことに被害を免れることができました。しかしながら檀家さんの中には浸水被害に遭われた方も多くありますし、寺として「被害が無かったから良かった」とは単純に言えるはずもない現状があります。自分の慣れ親しんだ地域がある日突然「被災地」と呼ばれることに対する言いようのない違和感や息苦しさに初めて気付かされました。復興に向けてなかなか事は前に進んでいかないのが現状ですが、寺としてこれからもできる限りの支援をしていきたいと思っています。
 さて、そんな大変な状況の中でも感心させられた出来事がありました。ある檀家さんは避難指示が発令されて、避難をする時に一通りの貴重品をまとめ、その次に仏壇の中のお位牌と本尊さまを持ち出されていたそうです。いわゆる緊急事態の中であっても仏さまとご先祖さまを大切にする心を決して忘れていなかったのだと、私は深く頭の下がる思いがいたしました。これは普段からの信心のたまものではないかと思います。普段からお供え物をして手を合わせて、ご先祖さまや仏さまとのご縁に感謝し、拝んでいるからこそ、自然とそれを大切にすることができるのだと思いました。そして、この大切に持ち出したご先祖さまや本尊さまは、きっとこの檀家さんの心のよりどころとなったであろうと私は信じています。

 三島の龍澤寺に住した近代の禅僧である山本玄峰老師の言葉に、「心痛はしてならぬ。が、心配は大いにせよ」というものがあります。災害に遭ってから改めてこの言葉が思い出されました。被災地の一日も早い復興に向けて、それぞれができることについて心を配り、そして少しずつでもそれを実行していく。きっと誰にでもできることであると信じています。昨今の災害において被害に遭われた方には改めて心よりお見舞申し上げ、皆様が一日でも早く元の生活を取り戻すことができるよう祈念申し上げ、結びとさせていただきます。