栞いろは歌  禅のことをもっと…

落花流水太茫茫(らっかりゅうすいはなはだもうもう)


その解脱の境界は、目にいっぱいのほこりがそのまま桃の花だ、桜の花だ。耳にいっぱいの泥がスミレの花だ、タンポポの花だ。見るもの聞くもの、花でないものはない。その落花が水に落ちて流れるがごとく、水もとどまらず花もとどまらず、大自然は自ずから流れて行く。千峰万峰、こちらがとどまるところがなければ、周囲の大自然もとどまるところがない。山も流れ川も流れ、花も流れ水も流れ、すべては流れて行くのである。この世の中にとどまるものは一つもない。その流れるままが浄土の姿である。美の極点である。何を見ても美しい。というて美しいものにとらわれてもいかん。

《原典・碧巌録/引用・山田無文著「無文全集」第 ニ巻『碧巌録U』(禅文化研究所)より》

写真 雲水/建長寺山内