お釈迦様は「一切の衆生、悉く皆な仏性を有す」、あらゆる生物が仏になれる素質としての仏性を持っておると仰った。これが仏教の原理である。ところで現実に犬に仏性が有るか無いか、と探究するならば、それは動物学の問題であって、精神文化としての禅の問題ではない。禅の問題は常に自己の探究にある。したがって、「狗子に還って仏性有りや也た無しや」という質問は、「犬のごとき煩悩だらけの無自覚な私ごとき人間にも仏性がござりますか、いかがですか」という切実な問題であらねばならぬ。
《原典・無門関/引用・山田無文著『無文全集』第五巻「無門関」(禅文化研究所)より》
*写真 狗子(犬)