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「姿より香りに生きよう」
福岡県・開運寺住職 池上寛道

 寒い冬を乗り越えて梅の花が開き、まわりになんとも言えない良い香りが漂っています。バラや牡丹のような派手さはありませんが、清らかな感じを与えます。

 花の香りは風に逆らっては進んで行かない。栴檀(せんだん)もタガラの花もジャスミンもみなそうである。しかし、徳のある人々の香りは、風に逆らっても進んで行く。徳のある人はすべての方向に薫る。『真理のことば』中村 元訳 「岩波文庫」

 金木犀のように四方に芳香を放つものでも、やはり風上に香ることはありません。しかし、すばらしい人の「徳」の香りは風下だけでなく四方へと漂っていきます。
 人は、お金もちになったり、高い地位に就くとどうしても自分のことを自慢したがるものです。自分のやったことを忘れないようにと、自分で自分の銅像まで建てて残す人もいます。そのように自分は思っていても、いなくなったらすぐに忘れ去られてしまうことも分からずに、です。
 人が見ているからやる、目立たないからしないというのではなく、自分の努めとしてやらなければならないのです。
 京セラを設立された稲盛和夫氏はその著『生き方』のなかで、「働く喜びは、この世に生きる最上の喜び」として、

 物事を成就させ、人生を充実させていくために必要不可欠なことは(勤勉)です。すなわち懸命に働くこと。まじめに一生懸命仕事に打ち込むこと。そのような勤勉を通じて人間は、精神的な豊かさや人格的な深みも獲得していくのです。

と述べられています。
 人の批評ばかりを気にして、目立つところばかりをするという行いでは、立派な仕事はできません。目立たなくてもいい「あの人のおかげで」と感謝されるような生き方こそ、生きる価値の深いものだといえます。自分が望まれている、「あなたでなければ」と思われているところに、生きがいややりがいがあるのです。
 最近はマスコミに取り上げられたり、派手なしぐさを売り物にしたりということを競っているように思われます。梅の花のように、派手ではないけれどいい香りを周囲に漂わせるような生き方をしたいものです。そうして、風上へも徳の香りが香るように。

掲載月 2008/02


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