禅宗で主に誦むお経はどんなもの? 般若心経をはじめ、臨済宗・黄檗宗でよく誦まれるお経の解説。

経典

開経偈 (かいきょうげ)

 この偈は、我々お互いは、この受けがたい人身を受け、遇い難い仏法に遇わせていただいているのであるから、この上ない仏法をよろこび、お釈迦さまのお心を大切に会得し守らねばならない、という内容です。金剛経の前にかならず合掌してお唱えします。

懺悔文 (さんげもん)

 私たちは、はかり知れない過去から、知らず知らずのうちに「身・口・意」(三業)から「むさぼり(貪)・いかり(瞋)・ぐち(痴)」(三毒)という悪いおこないをおかしています。いまこそ素直に懺悔します、という意味です。合掌して三遍お唱えします。

三帰戒 (さんきかい)

 三帰依戒ともいいます。仏・法・僧(三宝)に帰依(信心の誠をささげること)し、けがれない心で、尊い仏さま・仏さまが悟られた真理・僧侶にすがり、仏さまの弟子となり、以後けっして悪魔や外道のために心を乱してはならぬ、という戒めのご文です。葬儀には、懺悔文につづき三遍お唱えします。

摩訶般若波羅蜜多心経(般若心経) (まかはんにゃはらみたしんぎょう)

 この題目は、インドの古い言葉のサンスクリット語(梵語)を漢字に音訳したもので、「マカ」は大きく優れたということ、「ハンニャ」は智慧の意味で、「ハラミタ」は到彼岸と訳されています。「心経」は文字通り、心のお経ですが、中心となるお経、つまり仏さまの教えのエッセンスとも言えます。ですから、「偉大なる真理を自覚する肝心な教え」(山田無文『般若心経』)とも訳されます。わずか276文字(経名を含む)のこのお経は、宗派を問わず広く読まれるお経です。

消災妙吉祥神呪(消災呪) (しょうさいみょうきちじょうじんしゅ)

 正式には『仏説熾盛光大威徳消災妙吉祥陀羅尼』といい、8世紀中頃の不空三蔵によって漢訳されたものです。お釈迦さまが浄居天宮(二度と迷いの世界には環ってこない、聖者・神々の住む世界)で諸菩薩・星宿らに向かって、天災・人災など一切の災難を消除する教えを説かれたのがこのお経です。一心にこの陀羅尼を唱えることによって、一切の災難を消除し、一切の吉祥を成就することができるという不思議な功徳をもつものとされています。

妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五(観音経)
(みょうほうれんげきょうかんぜおんぼさつふもんぼんだいにじゅうご)

 『法華経』(妙法蓮華経)というお経は、経中の王などと呼ばれることもあり、お釈迦さまのお説きになったお経の中で、最も尊い経典だとされています。序品(章)から二十八品までありますが、臨済宗で常用されるのはその中の第二十五品『観世音菩薩普門品』です。これは『観音経』とよばれていますが、その後半の偈(韻文で書かれたお経)の部分を『世尊偈』『普門品偈』などといい、独立してお唱えすることがあります。観音さまは、広大無辺な大慈悲心をそなえられた仏さまで、ものに応じて三十三に身を変えて自由自在に人々を済度してくださいます。昔から多くの人々のあつい信仰を集めた仏さまです。このお経を念ずればあらゆる苦難から救われ、多くの幸せが授けられると説かれています。

大悲円満無礙神呪(大悲呪) (だいひえんまんむげじんしゅ)

 『大悲呪』は臨済宗で、祖師方へ、また在家の法要など日常頻繁に読誦されるお経です。この「ナムカラタンノートラヤーヤー」という語呂のよいお経は、『千手千眼観自在菩薩広大円満無礙大悲心陀羅尼経』という経典の中の陀羅尼部分だけをとり出したものです。千手千眼観自在菩薩(観音菩薩)の広大無辺、無量円満にして無礙融通なる大慈大悲心を表した陀羅尼という意味です。

開甘露門(施餓鬼) (かいかんろもん)

 寺院でお盆に行われる山門施餓鬼会や、日課のおつとめにもよく読誦されるお経です。各家のご先祖さま方は、日常、その子孫の方々から手あついご供養を受けておられるのですが、多くの精霊のなかには誰からも供養されず、餓鬼道に堕ちて苦しんでいる霊もたくさんあるはずです。このお経は、そのような餓鬼道におちて苦しんでいる多くの精霊を供養し、済度するためにお唱えするものです。
お盆は、目蓮尊者の因縁によって起こり、毎年7〔8〕月15日に行い、『仏説盂蘭盆経』にその本拠が見いだせます。また、施餓鬼は『仏説救抜焔口餓鬼陀羅尼経』に根拠があり、毎日修すべきもので、阿難尊者の因縁に基づきます。今日では、お盆とお施餓鬼の区別があいまいですが、もともとの因縁は全く別のものであることを心得てください。

仏頂尊勝陀羅尼 (ぶっちょうそんしょうだらに)

 このお経は、消災呪と共に鎮守火徳諷経でお唱えしたり、大般若会などでお唱えすることもある大切な常用経典です。正しくは、『浄除一切悪道仏頂尊勝陀羅尼』といい、『仏頂尊勝陀羅尼経』の中の呪文の部分をとり挙げたものです。禅宗では、多く滅罪・生善・息災延命のために祈る経典とされています。

金剛般若波羅蜜経(金剛経) (こんごうはんにゃはらみきょう)

 般若経典の一つで、『般若心経』についで広く流布しているものです。多くの訳がありますが、一般に用いられているのは、後秦の鳩摩羅什の訳したものです。内容は、仏陀とその十大弟子の一人、須菩提の対話形式で般若思想の要点を簡潔に説いたもので、空の思想を基本としています。この『金剛経』にまつわる話として、中国禅宗の六祖、慧能大師(638〜713)の因縁があげられます。慧能大師が出家する前、市中で薪を売っていたところ、一人の人が『金剛経』を読んでいるのを聞き、心がたちまちカラリと開け(開悟)、禅宗五祖の弘忍大師の門を叩くきっかけになりました。禅宗では特に重んじられる経典で、午課で一日半分ずつ読みます。

大仏頂万行首楞厳神呪(楞厳呪)
(だいぶっちょうまんぎょうしゅりょうごんじんしゅ)

 『大仏頂如来密因修証了義諸菩薩万行首楞厳経』の第七巻に載せる呪文で、「仏頂光聚悉怛多般多羅秘密神呪」というのが正式な題目です。今日では、歴代祖師の遠忌(斎会)、津葬などに、行道(お経を読みながら堂内をめぐること)して、あるいは座ってお唱えします。内容は、どんな誘惑に出会っても動揺しない本心(金剛堅固な本心)を説いたものです。このお経は三つの部分からできており、初めの四行を「啓請」、第一会から第五会を「平挙」、終わりの四行を「摩訶梵」といいます。

延命十句観音経 (えんめいじっくかんのんぎょう)

 観音さまのご利益を十句に縮めて、唱えやすくしたお経です。その成立については、種々の議論があり一定しませんが、眼目は「延命」、つまり寿命を延ばすことにあります。修行するにしろ、善根を積むにしろ短命では何事も始まりません。このお経は、延命のために観音さまに対しお唱えするものです。

四弘誓願文 (しぐせいがんもん)

 これは、仏教徒として心に掲げ精進すべき四つの弘大な誓願であり、すべての仏菩薩が発する四種の誓願でもあります。内容は、
一、数限りない一切の衆生を救済しようと誓うこと
二、尽きることのない多くの煩悩を断とうと誓うこと
三、広大無辺な法門をことごとく学ぼうと誓うこと
四、この上なく尊い仏道を修行し尽くして、かならず成仏しようと誓うこと
です。日課のおつとめや、法事の最後に、ゆっくりと心をこめて三遍お唱えします。

舎利礼文 (しゃりらいもん)

 舎利は、梵語を翻訳して骨身、あるいは霊骨の意味とされます。舎利には、骨舎利・髪舎利・肉舎利の三種類がありますが、特にお釈迦さまが入滅して残されたお骨を仏舎利といって尊称しています。禅宗では、お葬式のときなどにお唱えします。このお経は、我々の熱心な信仰心の力と、仏さまから加わる神力により、菩提心を発し、菩薩の行願を果たそうとするものです。何はさておき、強い信心をもって、一心に仏さまを礼拝しましょう、というものです。

白隠禅師坐禅和讃 (はくいんぜんじざぜんわさん)

 この和讃を作られたのは、今から250年ほど前にお生まれになった、臨済宗中興の祖といわれる白隠禅師です。そもそも、坐禅は臨済宗(禅宗)の宗旨です。しかし、座ることだけが坐禅ではなく、私たちの日常生活のすべて(行住坐臥)が坐禅です。謡うも舞うも法の声で、その場その場が直ちに浄土で、この身がそのまま仏であるということをわかりやすく説かれたものです。その眼目は「衆生本来仏なり。直に自性を証すれば。此の身すなわち仏なり」といわれます。くり返しくり返し、お唱えしてください。