法 話

合言葉は「おいあくま」
書き下ろし

岐阜県 ・通源寺住職  福田宗伸

 9月1日は防災の日。避難訓練に参加したり、ご家庭の非常持ち出し袋などを確認されたりしたことでしょう。
 避難訓練と聞けば思い出されるのが「おかし」という合い言葉。これは「押さない、駆けない、しゃべらない」という避難時の約束を分かり易くまとめた標語ですね。初めて耳にした時から30年以上過ぎましたが、今もしっかり心に刻まれています。
 それは避難という大事の時に「おかし(お菓子)」というかわいらしい言葉を合い言葉にする可笑しさに加え、何よりも単純で覚え易い言葉であったからだろうと思うのです。
 
 旧住友銀行の頭取を長年務められた堀田庄三氏は自身が戒めとしていた信条を社員たちへ機会があれば話していたそうです。それが、
  おこるな(怒るな)
  いばるな(威張るな)
  あせるな(焦るな)
  くさるな(腐るな)
  まけるな(負けるな)
の5つです。繰り返すうちに社員たちに浸透し、それぞれの言葉の頭文字を取った「おいあくま」が一つの合い言葉になりました。 
 この「おいあくま」も大切なことを覚えやすい上に実に分かり易く示してくれています。それは私たちが日々穏やかに、そして活気を持って過ごす方法です。いわばこころの防災につながる合い言葉なんですね。

myoshini1609a.jpg 悪魔といえば人を惑わし苦しめるものですが、その正体はなんでしょう? それは他でもない自分自身です。自分の思い通りにしたいという願望、自分の思い通りにならないという不満、自分が自分がというこころが悪魔となるのです。
 私の中にも悪魔が時折現われます。今こうして原稿用紙に向かっていても上手く書けないことに焦りますし、他の人と比べて自分はダメだと腐ります。しだいにイライラしてきて「もう辞めてしまおうか...」なんて考えもしました。それでも「おいあくま」と粘り強く自分自身をたしなめれば、こうした機会をいただけるのは有り難いことだと反省できます。自分にできることを頑張ろうと前向きな気持ちも自然と湧いてくるんです。
 「おいあくま」と自分に呼びかけて「はい」と返事をしてみましょう。「おいあくま」と自分に呼びかけて「さようなら」と別れを告げてみましょう。自分の損得にこだわる「私」を認めて消していくことで見えてくるのが感謝と謙虚なこころ。これこそ仏さまのこころです。そんな自分の内の仏さまのこころにも気がつける合い言葉でもあるんですね。
 
 9月1日は防災の日。自然災害や思わぬ事故に備えることは大切ですが、ぜひ「おいあくま」を合言葉にこころの防災にも努めるきっかけにいたしましょう。