法 話

「常行一直心」〜まっすぐな こころ〜
書き下ろし

佐賀県 ・常福寺副住職  山口宗祐

 ren_2402a_link.jpg禅では、真っ直ぐに取り組むことを大切にしている教えがあります。
 『六祖壇経(ろくそだんきょう)』という禅の語録に「常行一直心(じょうぎょういちじきしん)」という言葉があります。意味は「常に真っ直ぐな心を持って、目の前の一つに行じていきなさい」という意味になります。当たり前のようにも聞こえますが、果たして何か一つに真っ直ぐに向き合うことを本当に、できているのでしょうか。
 私たちの心は、何かをしながら心のどこかで、他のことが気になったり、他のことが心配になったりと、ついつい別のことを考えてしまいます。案外、一つに集中するのは、簡単のようで実は難しいことではないでしょうか。恥ずかしい話になるのですが、私も何か作業をしていても、つい他のことに気を取られ、結局中途半端になることが多々あります。そんな時こそ「常行一直心」の教えは私たちを導いてくれるのです。

 『六祖壇経』の語録には「常行一直心」を実践することで、道はただちに広まると示されております。(中川孝『六祖壇経』より)。その教えを私は、友人より感じ、学ぶことになりました。
 その友人はとても不器用な性格です。人付き合いが得意ではなく、要領もよくないので、同時に二つのことをすることができません。そんな友人から「聞いてほしい話があるから、会えないか?」と連絡があり、私は待ち合わせの場所へと向かいました。

 約束の時間に会うと、開口一番に「俺、結婚したい人がいるんだ」と言ってきて、「でも、大丈夫かなぁ」となにやら、不安そうな様子です。その訳を聞くと、結婚したいお相手の女性には、小学生になる男の子がいるそうです。その時の私は、なんとアドバイスをしていいのかわからなくて、彼の話を聞いてやることしかできませんでした。けれども彼の話を聞いていると、その時不思議と、きっと大丈夫だと思ったのです。
 それから一年程たった頃、友人から吉報がありました。「結婚式をあげるから、出席をしてほしい」とのことです。その報告を聞いた時は自分のことのように嬉しく思い、同時に一年前、不思議と「きっと大丈夫だ」と思ったことを思い返しました。

 一年前友人は「しっかりと子供と向きあうことを大事にしていきたい」と、何度も言っておりました。それからの彼は、子供と真っ直ぐに向き合うことを、なによりも専念したそうです。そんな姿を見た、御両家の両親や、周囲の人達がだんだんと認めてくれるようになり、無事結婚式を迎えることができたのでした。
 友人は、器用な性格ではなく、不器用な性格です。ですが、真っ直ぐに子供と向き合う、その一つができることにより、自然と道が広がっていったのです。私はそんな友人の姿に「常行一直心」の教えを感じたのです。

 私たちの心は「あれも、これもしなければならない」と思い、気がつけば全てのことが中途半端になってしまいがちになります。でもそんな時は一旦呼吸を調えて、まず目の前の一つのことに専念してみてはいかがでしょうか。仕事や趣味、家事、勉強、休息などの一つ一つです。一つのことに、真っ直ぐな心で取り組む姿勢は、友人のように、自分と周囲を明るく導いてくれます。ただ単に一つのことをやるのではなく、そこに「真っ直ぐな心」という、純粋で何ものにも執着のない心が伴っていなければなりません。そこが難しく感じますが、私たちには、それができる素晴らしい可能性を誰もが持っているのです。その心に触れ感じることができたなら、きっと道は切り開き、日常が豊かになると、私は強く信じております。
 「常行一直心」皆様の日常が、より良くなる教えになれば幸いです。