佐賀県 ・正法寺住職 矢岡究道 |
『突然、息子が逝ってしまった 四十九日』という小説があります。大学でパラグライダー部に入っていた十九歳の息子を、落下事故で亡くした著者。突然の死がもたらす絶望と悲しみに打ちのめされながら、四十九日を迎えるまでの一日一日の心の葛藤や変化をつづるノンフィクション小説です。 「あまねく世間(せけん)を導いて 同じく菩提(ぼだい)の覚路(かくろ)に 上らんことを」 七日ごとの供養でお唱えするご回向の一文です。「菩提」には、「悟り」や「慈悲の心」という意味があります。この一節が伝えるところは、「広く世の人々が仏の教えに導かれ、慈悲に目覚める道へと歩み上られることを願います」ということです。悲しみや苦しみを共に分かち合う人の心に、浄らかな仏の慈悲があります。故人を囲むたくさんの人たちがこの「慈悲」の道へと導かれるのが、四十九日という特別でかけがえのない期間です。大切にしたいものです。 |