法 話

自分みがきの旅
書き下ろし

鹿児島県 ・光明寺住職  松本昭憲

 もうすぐ桜の花が咲き入学式のシーズンです。昨年自分の子供の入学式に出席して参りました折、沢山の子供たちが心意気も新たに入場してくる様を拝見して感慨深いものがありました。

ren_202004a_link.jpg お釈迦様は、世間一般では進学・入学そして新入社と、人生の門出を迎える季節でもある4月8日にお生まれになりました。
 各寺院では「降誕会(ごうたんえ)」や「灌仏会(かんぶつえ)」もしくは「花祭り」と申しまして、お釈迦様の誕生を約2500年経った今でもお祝いしております。
 お釈迦様はお生まれになった時に7歩歩いて、右手は天を左手は地を指し「天上天下唯我独尊」(てんじょうてんげゆいがどくそん)と言われたと伝えられておられます。これは「自分はこの世に二つとない貴重な存在なのだから私たちは皆な大切な存在なのだ。だから自分の事を大切にしなさい」という意味ととらえられています。この自分の事を大切にしなさいとは、決して自分を甘やかすことではありません。いろいろな経験をたくさん積んで、自分に磨きをかけて、常に前向きに精進し、余計なことにとらわれない、迷いのない心を持つという事です。
 赤ん坊の事を玉のような赤ちゃんと言う様に、私たち人間は玉(宝石)のような輝きをもって生まれてまいりますが、せっかく玉のような輝きをもって生まれてきても何もしなければあっという間に失われていきます。ただの石ころになってしまうのです。

 よく「自分さがしの旅」という言葉を耳にしますが、この言葉は「自分みがきの旅」と言った方がよろしいかと思います。ここにいる自分を忘れて探しに行くのではなく、ここにいる自分を磨くために経験を積むために、そして新しい世界を知るために旅に出てください。
 その旅は出掛けなくてもできます。自分がここに居ながらにして経験を積めばよいのです。仕事や家事に打ち込むもよし、息抜きに遊ぶもよし。一所懸命にやってみましょう。

 「皆さんの心の中にこそ仏様はいらっしゃるのだから、その心を大事にしましょう」というのが仏教の教えです。生まれたときに光輝いていたはずの私たちが輝きを取り戻すための教え。それは迷いのない人生を送るための仏様の智恵なのです。その仏様の教えを実践することの一つが、私たちが持っている仏様の心を呼び覚ます自分みがきの旅であると思います。