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日日是好日――毎日が最高の日?

(出典:書き下ろし)

 365日、毎日が好い日なんてことがあり得るでしょうか? あり得ないように思えますが、そのように言っている禅の言葉が「日日是好日(にちにちこれこうにち)」です。
 大昔の中国でのこと、雲門禅師という方が大勢の弟子の前でこのように説法しました。

十五日已前は汝に問わず。十五日已後、一句を道(い)い将(も)ち来たれ

(十五日以前のことはお前たちには問わない。十五日以後の一句を言うてみよ)

 ren_2103a_link.jpg十五日というのに深い意味はありません。たまたまその日が十五日だっただけです。十五日以前というのは過去のこと、十五日以後というのはこれからのことです。つまり「過ぎた月日の事は問わない。今日!これからをどのようにして生きていくのかを言うてみよ!」と聞いているのです。
 大勢の弟子たちは誰も答えられなかったので、結局、雲門禅師が自分で答えました。

 「日日是好日」

 「毎日が好(よ)い日である」。いかにも、やんわりとしている優しい言葉です。しかし、この言葉はそんな生やさしいものではありません。その裏には、とんでもない苛烈な厳しさが隠されています。というのも、そもそも毎日が好い日であるはずがありません。人生には好い日もあれば悪い日もあります。しかし、この言葉は「毎日が好い日である」と言っているのです。これはどういうことでしょうか?
 これは「好い日、悪い日はどうすることもできないが、その日をどう生きるかは自分で決めることができる」ということです。今日がどのような日であっても、自分の生き方によってそれを好い日としていく。そうすることができれば毎日が好い日である。とんでもなく厳しい言葉であるということが、わかったのではないでしょうか?
 このようにお話しますと「しかし、悪い日を好い日に変えることなんてできるんだろうか?」と思うかもしれません。それでは一体「何が」悪い日を好い日に変えるのでしょうか?これは実は、みなさんの「心の力」です。心の力というものは、実はとんでもなく大きなものなのです。

 70歳の主婦の方のお話です。この方、結婚して50年、金婚式を迎える歳になったのですが、一つ気がかりがありました。それは、25年前の銀婚式記念のハワイ旅行のときに、旦那さんが金婚式にはまたハワイに来ようと約束してくれたのですが、そのことをちゃんと憶えているのかな、ということでした。
 そんなとき、自宅のお風呂と洗面所が故障してしまいました。取り替え工事が必要になったのですが、取り替え工事となるとそれなりの費用がかかります。しかし、生活に必要なものですので工事しないわけにもいきません。
 そうして費用を工面していたときに、旦那さんが見積もりを見ながらふと「……ハワイ行きの旅費、工事費に当ていいか?」と聞いてきました。奥さんは「うん! いいよ」と即答したそうです。
 「金婚式記念のハワイ旅行が、お風呂と洗面所の一部になったけれど、私には最高の記念になったと思っています」……奥さんは、このように話しています。
 お風呂と洗面所が壊れた上に、金婚式のハワイ旅行もなくなってしまいました。間違いなく最悪の日だったはずです。しかし「最高の記念になった」とまで言っています。なぜかというと、それは旦那さんの想いが嬉しくて嬉しくてたまらなかったからです。そのことが、最悪の日を最高の日へと変えたのです。

 悪い事が起きた、その事実は変えることができません。しかし、それを好い日にすることはできます。今日がどのような日であっても、自分自身の生き方によって、それを好い日へと変えていく。人生は思い通りにいかないことばかりですが、しかし、そんな思い通りにいかないことも幸せに変える力、それがこの「日日是好日」です。
 「過ぎた月日の事は問わない。今日!これからをどのようにして生きていくのかを言うてみよ!」と雲門禅師は問いました。さて、みなさんは今日からどのように生きていくのでしょうか?

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