忍辱 ー樹木が教えてくれたことー
(出典:書き下ろし)
自坊の東側の道路の道幅が広がることになり、その工事前に道路になってしまう部分の樹木何本かを別所に移植することになりました。樹木の根が無事に付くかどうか心配しましたが、次の春、思いがけないことが起こりました。梅にしても桜にしても、移植した木々の方が移植しなかった木々より明らかに美しく鮮やかに花を咲かせたのです。移植をお願いした植木職人によれば、それは「種(しゅ)の保存」ということでした。
根を起こされ、グルグルに締め付けられ、やがて新しい地面に下ろされて、一所懸命根を張る、それらの一連の移植の流れは樹木にとってかなりのストレスになります。しかしそのように「根をイジメる」と、逆に種を残そうと懸命により美しく咲くのだそうです。
私たち人間はどうでしょう。
仏教詩人 坂村真民先生の詩がその深い世界を示しています。
病が
また一つの世界を
ひらいてくれた
桃
咲く
ー坂村眞民詩集よりー
坂村真民先生は死ぬほどの大病に何度もおかされ、失明同然にもなりかけた方です。しかし先生はその病を恨むどころか、その苦しみがあったからこそ今まで気づかなかった世界に気づけた、見えていなかった世界が見えるようになった。有難いと、病気に対しても南無~と手を合わせておられます。
病気に限らず、不幸・事故・困難・障害などマイナスの事柄に遭うことが避けられないのが私たちの人生。そんな私たちだからこそ、あきらめず、へこたれず、前を向いて、自分なりの花を、たとえ小さくても美しい花を、咲かせようではありませんか。
自然の摂理を信じ、歩んでいきたいものです。