伝えると伝わる
(出典:書き下ろし)
「天高く馬肥ゆる秋」となりました。
さて、皆様この言葉の意味はご存じでしょうか?
空は澄み切り天高く、実りの秋・収穫の秋で馬も十分に肥え、秋は良き季節ですね。ではないのです。本当の意味は、漢書の「秋至れば馬肥え、弓が勁(つよ)く、即ち塞(さい)に入る」が語源の故事で「中国では、馬が肥える頃(秋)になると、北の遊牧民が作物を狙って争いが起こる時期になるので、国民は戒めて防戦の準備をせよ」という警告だったのです。
時候の挨拶に使われる言葉として、広く知れ渡っておりますが、言葉に込められた意味を正しく理解しておられた方はどれ程おられるでしょうか?
このように私達は、言葉を伝え聞いた時に、相手が伝えたかった内容・意味をそのままに聞く事は大変難しい事なのであります。
ある幼稚園での事です。今まで長かった髪の毛をバッサリと切り落とした女の子、その子が通園し友達と遊んでいる所へやって来た男の子、「Aちゃんの頭おかしい」と。それを聞いたAちゃんは泣いて先生の所へ。男の子は今まで長かった髪の毛に見慣れていたので、短くなったAちゃんの髪型を見て、「Aちゃんの髪型おかしい」と言う意味で「頭おかしい」と言ったのですが、Aちゃんは「頭脳がおかしい」と受け取ったので、泣いて先生の所に行ったのでした。
これは決して幼い子供の「言葉足らず」が原因で起こった話ではありません。伝える側の経験・認識、受け取る側の経験・認識が違う故に起こる事でありますので、老若男女問わず、他人に何かを伝えようとしても、自分の思いがそのまま伝わる事は非常に難しいことなのであります。
「如来一音演説法衆生随類各得解」
お釈迦様の説法は「手を打てばハイと答える。鳥逃げる。鯉は寄ってくる猿沢の池」と言われるように、音(法)を聞いたモノは其々に理解し納得できたのです。
しかし、気を付けないと、有名な先生の講演会でのお話でも誰しもAちゃんみたいに自分なりの解釈をしてしまいます。
ですから、私たちは、他人に伝えたい事は、よほど注意し、解り易く伝えませんと「寄っておいで」と伝えたはずが「逃げてしまう」かもしれませんよ。皆様ご用心、ご用心。