久しき昔
(出典:書き下ろし)
卒業式シーズンの3月。卒業生の皆さんはそれぞれに別れを惜しみつつ、新しい門出に期待と不安でいっぱいのことでしょう。
そんな私も学校を卒業して早やウン十年。卒業式の定番ソング『蛍の光』を歌ったかどうかは記憶にございませんが、なぜかアルバイトをしていたパチンコ店の閉店間際に流れていた、あの悲しげな旋律がついこないだのことのように思い出されます。
日本では『蛍の光』は別れの曲として知られていますが、原曲が伝わるスコットランドでは『オールド・ラング・サイン(久しき昔)』と呼ばれ、主に年の始めや誕生日、結婚披露宴などのお祝いの席で歌われるそうです。今から230年ほど前に書かれた歌詞は、旧い友人と再会し、思い出話をしつつ酒を酌み交わすといった内容になっています。
禅語にもこれに似た言葉がみられます。『碧巌録』第五十三則頌の中に「話り尽す山雲海月の情」という言葉があり、難しい解釈はさて置き、親しい者同士が久々に会って、互いに四方山話や思いの丈を語り合う様子が思い浮かびます。
私もたまに学生時代の友人や修行道場の仲間と会うことがあるものの、腹をわって話せる親友となると案外少ないものです。「得難きは時、会い難きは友」といったところでしょうか。
ところで、昨年の2月頃から地元の高校の野球部員が20数名、毎月坐禅に通ってくるようになりました。ある日のこと、1時間の坐禅の後に、ある学生が「メンタルを強くするにはどうすればいいですか?」と質問してきました。そこで私は、ダルマさんの話などを引用するけれども、イマイチ伝わらない様子。
そこから私のメンタルトレーナーの勉強が始まりました。全5回にわたって、メンタルについて話をしました。その中で最終的に行き着いたのは、やはり感謝の心でした。
私たちの周りには、すばらしいサポーターがいます。恩師や先輩たち、支えてくれる家族、夢を語り合い、ときに励ましてくれる友人たち。たくさんの人々との出会い、その助力があって、今ここに私たちがいます。
卒業間近の3年生は夏の甲子園大会の予選を最後に引退し、進学や就職を控えています。彼らは残念ながら甲子園大会出場の夢は叶いませんでしたが、1、2年生が昨秋、地元の大会で優勝してくれました。卒業後、またいつの日か恩師やチームメイトと再会し、思い出を語り合うことでしょう。
最後に、お釈迦様は親しむべき友とはどういう人であるかを四種に分けて示されました。
一、本当に助けになる人
二、苦楽をともにする人
三、忠言を惜しまない人
四、同情心の深い人 (『六方礼経』より)
このようなすばらしい友人を持つことは容易ではありませんが、これまでも、またこれからも本当に信頼できる良い友人を得ることができれば、人生はさらに豊かなものになるでしょう。
そして、大切なのは自分自身が親しまれる友人になるよう心がけていかなければならないということです。