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妖怪のハナシ

(出典:書き下ろし)

 錦秋の候となりました。皆様にはますます御清安のことお慶び申し上げますと申し上げたいところでありますが、残念ながら今年も国内各地で大きな自然災害や事件、事故、国外ではエボラ熱等々色々と大変な思いをされている方も多いことと存じます。心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早く平穏無事な日々が訪れますようお祈り申し上げます。
 先日、松江市の友人に誘われて鳥取県の境港へ観光に行きました。ここは「ゲゲゲの鬼太郎」の水木しげるさんの出身地ということで、JRの駅は「鬼太郎駅」、駅前交番は「鬼太郎交番」、空港は「米子鬼太郎空港」。そして、駅から水木しげる記念館までの約800メートルの「水木しげるロード」の両側には多種多様な妖怪関連商品を陳列した商店が軒を並べていて、ひやかしながらぶらぶらするのが何とも楽しいです。
 「妖怪もバカにできんなあ、なかなか奥が深いもんだなあ」などと思いながら歩いているうちに、私は大変なことに気がついてしまったのです。鬼太郎の着ぐるみに群がる子供達、向こうから歩いて来る思い思いの色々な格好の若者達、ソフトクリームを舐めながら笑う茶髪、赤頬、長まつげの女子達、大丈夫かと思うほどのメタボの中年男性達。「何だ、これは。みんな妖怪みたいじゃないか。人間らしいのは俺だけだ」と思いながらショーウィンドウに映った姿は、だぶだぶの作務衣にぼろ頭陀袋を首からぶら下げ、坊主頭に麦わら帽子、「ああ、俺もやっぱり妖怪だ」。
 そうです、私達はみんな得体の知れない妖怪なのです。あれも欲しい、これも欲しい。もっと便利に、もっと快適に。確かに科学技術の発展は私達に限りない恩恵を与えてくれています。しかしながら、世の中がこんなに便利になっても日々の暮らしは一向に平安にならないばかりか、人々の不安、不平,不満はますます大きくなっているのではないでしょうか。
 私達は便利さや快適さと引き換えに、とても大きな大切な何かを失っているのではないでしょうか。
rengo1412.jpg 「今日はいい天気だ」。ほんとにそうでしょうか。良い悪いを決めるのは私です。本当は「今日は私にとって都合のいい天気だ」です。自分の都合で決める以上、毎日いい天気になることは絶対にあり得ません。不安、不平、不満が無くなることはありません。自分の都合や欲望にとらわれないこと、仏教はこれに尽きるのです。何より恐ろしいのは自分という妖怪なのです。何とかして、この妖怪を手なずけて、飼い馴らして、自分と仲良く、みんなと仲良く今日一日を暮らしてゆきたいものだと思います。来年こそ本当に平穏無事な一年でありますように心よりお祈り申し上げます。
南無妖怪大菩薩。 合掌

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