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全米オープンの風

(出典:書き下ろし)

rengo1411.jpg テニスの全米オープン決勝まで進んだ錦織圭選手は、私の寺のある松江市の出身であります。決勝戦当日は松江市民が、山陰から熱いエールを送っておりました。
 この試合の数日前、わたしは南禅寺派第十教区寺院の御檀家さん40名を引率して、本山参拝旅行に行っておりました。ある京都市内のおみやげ屋さんで、「勝つまでやるから勝つ」というセリフの入ったシャツをみつけました。この名言は吉野屋の社長さんのお言葉だと後で知りましたが、野球少年と化している息子にぴったりのシャツであると思い、お土産にしました。
 錦織圭選手の子供の頃、大人相手のゲームで自身が負けたりすると、大変に大泣きをして悔しがったという話は松江では有名です。
 勝負の世界の厳しさ、辛さ、そして楽しさ。子供だからこそ純粋に入り込めるのかもしれません。だからこそ、勝ちを得るまで突き進むことができます。この度の全米オープン試合後に錦織選手は、「ここまで硬くなったのは久しぶり。試合に入りこめなかった」と話しました。 惜しくも準優勝に甘んじた錦織選手だけでなく、目標に手が届くことができなかったすべての方々へ、禅の立場からエールを送りたいと思います。

八風吹けども動ぜず (『寒山詩』)

 八風とは利益、衰退、陰口、名誉、賞賛、悪口、苦、楽という人の心を揺さぶるものを風に例えたものです。「どんな毀誉褒貶(きよほうへん)にも犯されない、動じない心を既に私たちは具えていますよ」と説いた禅語です。
 禅の見方から、勝ち負け損得を唱えるとヤボになります。人生には、理由も原因も突き止められない難事が、不定期に訪れ得る。その場に立った時、動揺せずに受け止められるかどうか。動揺の止まぬその心と涙を拭いて、次の希望に繋げて頂きたいと思うのです。
 山陰には山中鹿介という郷土の英雄もいます。『我に七難八苦を与え給え』と、月に祈ったとされるその姿を重ね合わせ、勝敗だけを見るのではない、その人の勝負の世界に投影した、ひたむきな心に、輝きがあるのです。
 人の心を揺さぶるのは、どのような勝敗でも、観客が立ち尽くすような名勝負でしょう。松江に吹いた全米オープンの風。市内に設けられたパブリックビューは、朝の報道番組に盛んに取り上げられましたが、敗退後十五分で観客は立ち去りました。
 これより先に吹くであろう、賞賛と衰退などという風をものともせず、人々を魅了する名勝負を期待しております。

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