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棚経で出会う

(出典:書き下ろし)

 7月8月のお盆、臨済宗では棚経という習慣が有ります。お坊さんが檀家さんの家を回って、お盆の為に飾り付けられたご先祖様や、有縁無縁の諸霊位を祀る祭壇にお経をあげるのです。
 最近は檀家数も増えてやむを得ず、新盆のお宅だけ回るお寺も有るようですが私が住職しているお寺は、三日も回れば市内の檀家さんを全て回わることができるので有り難い事だと思っています。
rengo1409.jpg お盆はご先祖様が帰って来られるので、お迎えにいったり、迎え火を焚いたり、その家独特の風習があったりします。そういった風習には理屈では説明できない事も多く有ります。私どもの地域では、初日には茄子と胡瓜でつくる牛と馬(ご先祖様が冥土からの往復に使われる乗り物)の手綱となる素麺を茹でてお供えし、二日目は、ご先祖様が冥土の友人にお土産を買いに出かけるときのお弁当として、牡丹餅を作ったりお赤飯を作ったりしておられます。送り火は15日という家もあれば、16日というところもあって様々です。そこには両親や祖父母から言い聞かされた伝統(家風)が、脈々と受け継がれているようで微笑ましい気持ちになります。
 今年の棚経で檀家さんを回っている時、小さいお子さんが居られる家にお参りしました。このお宅はお墓もうちの寺には無く、ご先祖もご実家がご供養されているのですが、子供にしっかりとお盆の事を見せておきたいとお考えになり、お子様ができてから初めて私の寺の檀家さんになられたお宅でした。
 だいぶ待っていてくれたようで、3歳の女の子は恥ずかしがったり、興味があったりで落ち着かない様子です。お経が終わって食事を頂いている時に、迎え火を焚いたときのお話を聞かせていただきました。
 「この火を目印にご先祖様は、うちに帰って来てくれるのよ」と言うと「うん」と納得した様子だったようです。しばらくして「明日は和尚さんが来るからね」というと、その子はすかさず「その人は目に見えるの?」と聞きただしたというのです。
 見えないご先祖様と見える和尚さん。理屈を超えた存在に改めて気が付き、感謝の気持ちを捧げましょう。

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