大いなる命の中に
(出典:書き下ろし)
気象や動植物の様子によって季節をあらわす「七十二候」によると、雀が巣を構え、桜の花が咲き、遠くで雷が鳴る頃を「春分」と呼ぶそうです。「国民の祝日に関する法律」では、3月下旬の「春分の日」を「自然をたたえ、生物をいつくしむ日」と定めています。新たな命が芽吹く素晴らしい季節がやって来ました。
天地与我同根、万物与我一体(天地われと同根、万物われと一体)
『碧巌録』にある雪竇(せっちょう)禅師の言葉です。分別や執着を離れて無心になれば、自分と他人を分け隔てるものはなく、相手の気持ちになり切ることができます。この素直で清浄な心こそ、私たちが本来備えている仏の心です。
自分と他人だけでなく、他のあらゆる命や天地宇宙の大自然も、分け隔てのないひとつの大いなる命であると自覚するのが、天地われと同根、万物われと一体の心境であります。
生命誌研究者である中村桂子さんは、著書の中で「人間は生き物であり、自然の一部である」と繰り返し提唱しておられます。「ひとつひとつの命が独立して存在しているのではなく、人間も含めたあらゆる生き物が、大きな関係性の中で互いにつながって生きている」と・・・・・・。
このような考え方は「天地われと同根、万物われと一体」の心にぴったり重なります。最先端の生命科学が仏教の智慧と見事に一致しているという事実は、大変興味深いものであります。
自分の事ばかり考えて、他人を犠牲にしてはいませんか? いつの間にか自己中心的な態度になったりしていないでしょうか? そんな時は何事も行き詰まってしまうものです。自分の事ばかり考えていると、余計に自分が成り立たないのです。自他を分け隔てせず、敬意や感謝の気持ちを忘れずに、互いの幸せと調和を願うおおらかな心で生活したいものです。
「春分の日」を真ん中にして前後の三日間を含めた計七日間は、春のお彼岸です。山河大地の恩恵に感謝し、この命を授けて下さった父母やご先祖に感謝し、この大いなる命の中で生かされていることに感謝。春の青空のようにおおらかな心で、お彼岸を過ごしましょう。