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今年の目標

(出典:書き下ろし)

myoshin1301b.jpg  私も中年と呼ばれるような年齢になってまいりました。昨年は同世代の檀家さんの葬儀をつとめたり、家族が大病を患うという出来事があり、自分の健康や寿命というものが気になりだしました。しかしどんなに健康に気を使っても、事故や災害が身に降りかかることもあります。結果、今年からはその日その日を充実したものにすることに決めました。
 松尾芭蕉が晩年に病床にあった時、去来という門弟がたずねました。「昔から高名な方には、みな辞世があります。先生ほどの方に辞世がなかったのかと、世間で言われては残念です。ぜひ、一句お残し下さい。門弟達も満足いたします」。
 これに対して芭蕉は「昨日の発句は今日の辞世。今日の発句は明日の辞世。わが生涯に言い捨てし句々、一句として辞世ならざるはなし」と答えたそうです。「古池や蛙飛び込む水の音」などに代表される、素晴らしい俳句を数多く詠んでこられたのですが、その一句一句がすべてその時々の全身全霊を込めた一句であったのです。ですからいつ自分が死んだとしてもその前に詠んだ俳句が辞世だと言われたのです。それほどの覚悟を持った生き方をされたからこそ、俳聖と呼ばれるほど芭蕉の芸術が実を結んだのでしょう。 
 禅語に「一期一会」というものがあります。「一期」とは一生涯、生まれてから死ぬまでのことです。「一会」とは一度の出会いということです。その時に出会う人や物事を、一生に一度の出会いだという気持ちで接しなさい、ということです。
 私たちの命は、あとどれくらいあるのでしょうか。正直なところ、あと一呼吸先、一秒先も確かではありません。そんな不確実な一瞬一瞬の積み重ねが一日であり、その一日一日の積み重ねが私たちの人生なのです。だとしたら、一瞬一瞬を精一杯、悔いの残らないように生きてみましょう。その積み重ねが、私たちの人生の充実感になっていくと思うのです。

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