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ある朝の出来事

(出典:書き下ろし)

rengo1205.jpg 私が副住職をさせていただいておりますお寺の近所に、数年ほど前、一軒の“葬祭会館”ができました。最近では様々な事情でお寺の本堂で営まれる葬儀も少なくなり、地域全体を見回しても“葬祭会館”を利用するお寺がかなり増えたようです。
 この近所にできた“葬祭会館”、ある幼稚園の送迎バスの停留所になっているのです。毎朝午前9時すぎには火葬場へ向かう霊柩車やマイクロバスが駐車場に溢れるのですが、その中にいつも一台の幼稚園の送迎バスが並んでいるのです。
 喪服を着たご遺族様に混ざって、お母様方と手をつないだ多くの園児たちの姿がそこにはあるのです。言葉はあまり良くないのですが、ある種異様な光景です。もう何年も前からこの会館を利用させていただいているのですが、先日この会館の二階の控え室から表を眺めておりましたら、ちょうど火葬場へバスが出発するところで、合図のクラクションが鳴り響いておりました。その時、私は思いがけない光景を目にしたのです。幼い園児たちが火葬場へと出発する霊柩車とバスに向かって手を合わせているのです。私は一瞬、自分の目を信じることができませんでした。その日はたまたま居合わせたお孫さんを送りに来ていらっしゃる初老の女性とお話をすることができました。「“縁起が悪い”とか、“怖い”と多くのお母様方はおっしゃいますけどね、子供たちは毎年毎年みんないつの間にか自然と手を合わせる様になるんですよ」。そう彼女は私に教えてくれたのでした。
 毎朝一生懸命その小さなお手々を合わせる子どもたち、純粋な、素直なその気持ちをいつまでもなくさないように、我々大人も忘れかけているであろう純粋な素直なその気持ちを思い出し、そしてこのまだ幼いこの子たちをしっかりと見守っていかなければならないのだなと実感した、ある朝の出来事でした。

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