ヤマモモの伝
(出典:書き下ろし)
方広寺(臨済宗方広寺派の本山・浜松市北区引佐町奥山)では、4月22日に末寺の住職方による荘厳な行事(開山忌)が執り行なわれます。
毎年開山ご真前には、朱に染めたピンポン玉くらいの饅頭に「ヤマモモ」の枝を手折って添えたものをお供えするのが慣わしになっているのです。
ある時、その係りになっている僧が、
「何故こんなことをするのだろう。この饅頭の意味がわからない」と。
時は2001年4月12日、方広寺として初めて開山禅師(後醍醐帝の皇子・無文元選禅師)のご修行の寺(中国福建省・高仰山大覚妙智寺)を訪れました。その歓迎ぶりは破格のものでした。テーブルの上には色とりどりの果物が所狭しと並んでいます。その中にまさしくピンポン玉にも引けをとらないヤマモモの実が盛ってあったのです。そして思わず叫んでしまったのです。
「これだ!」と。
胸の奥から込み上げてくる感動と同時に、今までの心のモヤモヤが払拭されました。「眼から鱗」とは正にこのことです。異国での血のにじむようなご修行より六百五十有余年の時を経て、今その供物の意味が実証されたのです。開山禅師は果物でも特にこの地で採れたヤマモモをこよなく愛したのでしょう。その朱饅頭が途切れずに口伝として伝わってきたそのことが尊いことなのです。
今年もまた開山忌がやってまいります。禅師のご恩に報いるため、精進努力を誓うべく、朱饅頭にヤマモモの枝を添えて……。