命の絆 -龍国の教え-
(出典:書き下ろし)
昨年末、京都清水寺貫主が揮毫された、平成23年の世相を一字で表す漢字が“絆”。東日本大震災の大規模災害によって、家族や人と人との繋がりの大切さを改めて知ったことが選ばれた理由に挙げられています。“つなぎとめる紐”の意を持つ“絆”には、人と人との思いもあるが、命のつながりでもあるのです。
「あなたは何歳ですか」と聞かれれば、生まれてからの年数を言います。しかし、命の年齢となればこの世に生物が誕生してから一度も途切れず今の私があるのですから、38億歳とも言えます。もっと突き詰めれば、地球や宇宙が誕生した時から命をつないで今日に至り、しかもこの命はこの世の全ての生き物ともつながり、相互依存によって今の私の命が保たれているのです。
釈迦はこのことを、華厳経中の「インドラ(帝釈天)網の喩え」で、命の絆として説かれています。帝釈天の宮殿に掛かる無量の網の結び目の一つ一つに宝石が付いており、私達個々の命はその網の結び目にある宝石のようなもので、この結び目から四方に糸が張り、その先に結び目があり、またそこから四方に糸がつながっている。この私という結び目の一つが存在する為には他の多くの結び目の存在がなければならない訳で、この結び目の宝石を摘み上げると全ての結び目がつながってあがって来るというのです。
昨秋ブータン国王夫妻が、東日本大震災の被災地を訪れ話題になりました。「やがて我が国も近代文明の発展をしていくことだろう。しかし物質的発展の名の下に、伝統文化や、自然環境が損なわれるならば、それはブータン人にとって最も不幸なことであり、そうした発展は是が非でも避けねばならない。大切なのはGNP(国民総生産量)ではなく、GNH(国民総幸福量)である」という先代国王が掲げた政治指針によって国民のほとんどが幸福と感じています。
「生まれ変わり死に変わり姿を変え、生きとし生ける命はつながりあって存在している」という“輪廻転生”の教えを説くチベット仏教を根幹とする信仰は、現在もブータンの国政に活かされ続けていることを、以前渡航して幸せそうな人々の姿を目の当たりにして知りました。
大震災で発生した原子力発電所の事故により、GNP(GDP)の向上を追求して得られた快適な生活は、必ずしも国民の幸福につながって行かないことに気づかされた日本人にとって、龍を国旗に描き、自らの国名をドゥルック・ユル(龍の国)と呼ぶヒマラヤの小さな国に学ばねばならない年(時)が来たのかもしれません。