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かきくけこのインド旅行

(出典:書き下ろし)

myoshin1201b.jpg  京都大学の大島名誉教授が、脳を活性化させる「かきくけこ運動」を提唱されています。

か・感動
き・興味
く・工夫
け・健康
こ・恋

 私は昨年の八月末に、妙心寺派管長・河野太通老大師猊下と供に、インドを旅する機会に恵まれました。その旅とは“ナグプール・龍樹菩薩大寺参拝、コンダサヴァリ・RACK診療所視察の旅”でした。今回のインド旅行でこの「かきくけこ」はあったでしょうか。

 インドといえば、四大仏跡が中心となる“仏教遺跡の旅”となるでしょう。
 釈尊生誕の地であるルンビニー(これはインドとの国境、ネパール側ですが……)、成道をされたブッダガヤ、初転法輪で有名なサルナート、そして、最後の日をむかえたクシナガヤ。どの仏跡に巡拝しても、他国の僧、特にチベット僧が目立ちます。ただ、物売り、物乞いの多さには辟易します。そんな国に、はたして仏教は生きているのでしょうか。き・興味津々です。

 佐々井秀嶺上人という方が、40年以上の間、日本に帰国することなく、ナグプールを中心に仏教活動をされています。上人がある夜、夢枕に突如として現われた人物に、

我は龍樹也。汝速やかに南天龍宮城へ行け。
南天龍宮城は我が法城也。
我が法城は汝が法城、汝が法城は我が法城。
汝速やかに南天龍宮城へ行け。
南天鉄塔 亦そこにあらむ乎。

と告げられました。龍樹と名乗ったその人物は、告げ終えるなり忽然と姿を消したといわれます。
 龍樹とは大乗仏教の創始者で、2~3世紀にインド中南部を中心に活動し、日本では「八宗之祖」と称されています。南天鉄塔とは龍樹が金剛薩埵から大乗経典を授かったといわれる場所です。
 上人はその場所がナグプール郊外にあると信じ、3年前にこのたび訪ねる龍樹菩薩大寺を建立、落慶されました。今回は高さ9メートルもある巨大な寺の門柱に管長猊下が寺号を揮毫され、その開眼法要と、アジアの友を支援するRACKの活動として上人を通じてのRACK診療所の視察が目的でした。け・健康だから私も同行できたのです。
 ちなみに、このナグプールは、1956年10月、アンベードカル博士によってヒンドゥー教から仏教への集団改宗式が行なわれた都市であり、インド仏教復興運動の拠点です。いまや日本の総人口より多い1億5千万人の仏教徒がいるといわれています。

 さて、佐々井上人ご一行は空港で私達を迎えると、なんとその場で頭を下げ跪き三拝をされたのです。そして上人が活動するナグプールの下町にあるインドラ寺、今回の龍樹菩薩大寺でも、大勢の老若男女の仏教徒が私達に頭を下げ跪き拝をし足に触れられたのです。驚きと恐縮と……。日本では絶対にありえません。か・感動しました。
 真の仏教がインドにはあります。上人のまわりには「バンテ・ジー(和尚さま)」と呼びかけながら跪く。その方々の笑顔は輝き、生きる力をいただいているのです。
 仏教巡拝で釈尊の歩まれた大地を踏むのもいいですが、今回の旅は、インドで“生きた仏教、他宗教と闘う仏教”を知る旅であり、これからの日本仏教のあり方を考える旅でもありました。く・工夫とは、これからの仏教のあり方です。
 こ・恋がなかったのでは? いいえ、あります。上人は龍樹に恋し、私達、仏教徒は仏教に恋しているのです。

 一月に当たり、辰年で龍樹の話です。そして、一年、「かきくけこ」で脳をリフレッシュ!

参考『必生 闘う仏教』佐々井秀嶺 集英社新書

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