手紙を書くのを忘れずに
(出典:書き下ろし)
法事の時やお墓でよく見かける「板塔婆」、これには御先祖様に対する感謝のお手紙というもう一つの意味があります。「板塔婆」を見ていただければ、表にはご先祖様の戒名が書いてあります。これはお手紙で言えば宛名(宛先)です。そして、裏には大日如来を表す「バーン」という梵字が記されています。これは大宇宙どこまでも届く切手であります。その下に施主、皆様のお名前が書いてありますが、これは送り主にあたります。ですが、この板塔婆は封筒だと思ってください。封筒だけでは御先祖も寂しがられます。やはりお手紙を入れるのを忘れてはいけません。
お手紙は、皆様方の菩提寺の法要時に和尚様のお経を聞きながら、御先祖様への感謝の気持ち、そして、皆様御家族や親族、御縁のある方々と仲良く元気に暮らしておりますと、心の中でお書きいただきたいと思います。同時に、自分も何時の日か、御先祖様がおられる世界に必ず行くということを忘れないでいただきたいのです。それは、今日かもしれないし、明日かもしれないし、また十年後、二十年後かもしれない。それは、誰にもわからないことであります。
だからこそ、今日が最後の命であるという気持ちで、今日を、今を生きていただきたいのです。私も毎朝、お経を読ませていただいておりますが、いつも、もう明日はお経を読むことができない、今日が最後のお経であると思って、お経を読ませていただいております。
禅の世界では「明日はもう命がないと思うて生きよ」と教えられます。皆様も今日一日を、今この瞬間を大切に生ききって、悔いのない人生を送っていただきたい。そして、感謝の心で今日を生ききる時、その瞬間が「彼岸」(仏の世界)なのであります。彼岸は御先祖様だけが行く所ではなく、今生かされている我々も行くことができるのです。それはどこにあるかと言えば、はるか遠くにあるのでは無く、今この瞬間ここにあるのです。「生きながらに彼岸に到り仏になる」それが二千五百年前にお釈迦様が伝えられた仏の教えであり、達磨大師の説かれた禅の教えであります。そして、この今日を大切に生ききることが、御先祖様への一番の供養になるのです。くれぐれも御先祖様へ感謝のお手紙を書くことをお忘れなきようにお願い申し上げます。