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秋彼岸 ― お塔婆におもう その1 ―

(出典:書き下ろし)

rengo1109.jpg  今から76年前の昭和9年9月21日 京都建仁寺で秋の彼岸法要の準備をしていた所に室戸台風が襲い、大方丈は空中に持ち上がり、地面に叩きつけられ見る影もなく、境内にある多くの松の木が薙ぎ倒されたそうです。この時、大方丈の下敷きになった雲水(修行僧)でのちに、臨済宗妙心寺派養賢寺専門道場師家になられた、立花光宗老師が居られました。老師は奇跡的に命を取り留められ、人間は皆、いつも死と隣り合わせに生かされているということを、身をもって教えられたようです。大自然の前では、人間の力など無力であり、大自然への畏敬の念と感謝の心を忘れてはいけないと、常に自らの心に留めています。
 さて、秋のお彼岸月になりましたので、「お塔婆」についてお話させていただきます。
 彼岸は、御先祖様への供養と共に、私たちが功徳を積ませて頂く期間で、彼岸の法要に大切なものに「お塔婆」があります。「お塔婆」は、正式には「卒塔婆」と言います。元は2500年前、お釈迦様が80歳でお亡くなりになられた時、その仏舎利を八つの国に分骨し、それぞれの国が五重の石の仏塔を建立したことにあります。この塔を五輪塔と言い、下から「地・水・火・風・空」を表し、これを仏教では五大思想と呼んでいます。「地」は地球、「水」は水、「火」は太陽、「風」は空気、そして「空」とは大宇宙すべてを包み込む無尽蔵のエネルギー源「大宇宙の命」です。これら五つの大いなる命により、我々は生かされているのです。
 仏塔のことを、サンスクリット語では「ストゥーパ」と言い、中国に渡り「ストゥーパ」が「卒塔婆」になり、日本に渡り「塔婆」という言葉になっております。ですから、塔婆と言えば、東寺や、八坂法観寺の五重の塔など、仏舎利を祭るお墓のことなのです。「造塔延命(ぞうとうえんめい)功徳経(くどくきょう)」というお経の中に、「卒塔婆」の功徳が書かれており、それによると、あと七日の寿命と告げられた波斯(はし)(のく)王が「童子がたわむれに自分の背丈ほどの土の塔を建てた功徳によって七年の寿命を得た」という因縁話をお釈迦様から聞いて大いに発心し、自ら多くの塔を建立して寿命を延ばしたことが説かれています。
 しかし、私達が仏舎利塔や五重の塔を建立することは大変です。それに代わって木の板で出来た板塔婆を建てるのです。板塔婆は上の部分がギザギザの模様になっております。これも五輪塔の「地・水・火・風・空」を表わしており、同じ功徳があると言われております。また、このお経の中には、「卒塔婆」を建てようと思っただけで地獄の苦しみから救われる、そして、この塔を建てた者は必ず仏の世界に生まれることができるであろう、と説いております。お彼岸の法要の時には、お塔婆建立を願いつつ、御先祖様とともに私達も大いなる功徳を積み、心安らかな秋を送りたいものです。

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