感謝の心を伝えたい
(出典:書き下ろし)
以前は、周りの人を少しでも幸せにしたい、だから修行しなければというのが、私の修行の原動力だったように思います。
今は、私が他人を幸せにするんじゃない。一人一人が仏様の教えによって、自ら幸せになるんだから、そのお手伝いをするのが私の仕事なんだと思うようになりました。
最近、新聞にこんな広告を見つけました。それは「宮崎中央新聞社」という新聞社から出ている書籍の広告でした。本のタイトルは『日本一心を揺るがす新聞の社説』です。私はタイトルがすっかり気に入ってしまいました。見出しには新聞の無料体験購読ができると書いてありました。書籍は一旦置いといて、新聞を一カ月体験購読することにしたのです。
毎週一回送られてくるその新聞を、大変興味深く読ませて頂いているのですが、中でも私に大きな衝撃を与えたのは、“理念と経営・経営者の会”会長をなさっている木野親之氏の文章でした。その文章を見てみると、松下幸之助氏の言葉が沢山出てきます。その中からいくつか抜粋させて頂きます。
・「経営理念の確立」これが成功のための絶対条件です。
・経営理念に必要なものは―中略―「まず、錦の御旗のような、これだ!というものがあること」
・時代を超えた経営理念になっているかどうか。国境や民族を越えた経営理念になっているかどうか。
どうかこの「経営理念」のところを、「お寺の運営理念」にして読んで下さい。私達のお寺の理念はお釈迦様の教えである仏教です。
でも、その教えとそれを教える方の僧侶と、教えてもらいたい人との間に、大きな隔たりがあるように感じていました。それは何なのでしょう。
私は仏教を通じて、多くの人に幸せになってもらいたい。かけがえのない人生を歩んでほしい。では、なぜ仏教がそれを与えることができるのか。仏教を何の為に学んでほしいのか。今までそれがぼやけていたように思います。
私のお寺の運営理念、それは「感謝の心」です。人は何かに頼って生かされている。そのことに気付いて感謝することで、初めて本当に人として生きることになるのではないでしょうか。一人だけで完結する「いのち」ではなく、縁によって結ばれている「いのち」だからこそ、そこにかけがえのない「私の人生」があるのです。そして、親や兄弟、周りの人、先祖、自然や水や空気やあらゆるものに生かされていることに感謝する行為から、供養の心も生まれてきたのでしょう。現代はボタン一つで、何でもできる時代になりました。私達は、その便利さと引き換えに、繋がりというものを失ってきたのではないかと思います。その繋がりを見つめ、感謝するきっかけを与えてくれるのが、仏様の教えなのです。
今生の最後に、何か一言言えたなら「ありがとう」と言える生き方がしたいですね。