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心ひとつに

(出典:書き下ろし)

rengo1107.jpg 「お寺からわずか数キロ先の街が津波で大変な事になっている」。仙台市青葉区に住する私がこの事実を知ったのは、ようやく電気が復旧し、テレビを見られるようになった東日本大震災4日後の午後のことでした。
 震災から早くも百ヶ日が経過しましたが、津波の被害が特に激しい沿岸部周辺は、見る者の心を深く深く傷つける光景が未だにどこまでもどこまでも続いております。
 「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)」とは、お釈迦様がお生まれになられた時に発せられたお言葉でありまして、諸説はあるものの「一人一人は違うけれども、みんな違ってみんな素晴らしい。みんながそれぞれ尊い存在である」という釈尊の教えです。
 みんな違ってみんながそれぞれに素晴らしいのですが、「仏心」は皆同じ、皆ひとつでなければなりません。ここでは「仏心」は「他を思いやる気持ち」と言い換えさせていただきます。
 3月11日の震災後、テレビCMや新聞等の各メディアでは震災復興へ向けて、何処の誰の言葉かわかりませんが、「心ひとつに」と連日報じられております。また、街行く自動車、店先のポスター、避難所の掲示板等、私はありとあらゆる所でこの「心ひとつに」の文字を目にし、そしてこの言葉を耳にして参りました。
 震災復興への関わり方も天上天下唯我独尊、人それぞれ「各々が最善と思われる方法で行動すれば、それぞれがみんな違ってみんな素晴らしい」はずですが、「多くの亡くなられた方々、被災者を思う気持ち」は「ひとつ」、「みんな同じ」でなければならないのではないでしょうか。
 数多くのそれぞれの気持ちが、「ひとつ」、「同じ」になった時、震災で亡くなられた多くの方々のご冥福と、一日も早い復興が約束されるはずだと信じております。
 毎日、被災地の状況も変われば、被災者の胸の内も変化していきます。「心ひとつに」天上天下唯我独尊、みんなそれぞれ違うけれども、被災者の方々を思いやる気持ちを「ひとつに」、「同じに」する事が我々にできる最初の第一歩です。

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