緑のカーテン
(出典:書き下ろし)
東日本大震災により、日本全国で節電が叫ばれる今年の夏、中でも電力を最も消費するのはエアコンであるとか……。その使用を控えるのに有効なのは、日光を遮ることです。
よしずやすだれもいいけれど、中でも効果があるのは緑のカーテン、見た目の涼しさや日光を遮る「遮蔽作用」はもちろん、葉の裏から水蒸気を放出する「蒸散作用」などにより、室内温度の上昇を防ぐのです。
緑のカーテンに利用されるのはゴーヤやヘチマなどの蔓植物ですが、私の近所のお宅に植えられたのは朝顔、今はまだ庇までの高さの半分をやっと超えたところですが、やがて一面緑に覆われることでしょう。一面の緑の中に咲く朝顔の花々が、今から楽しみです。
詩人・金子みすゞさんの「朝顔のつる」という詩は、朝顔の成長を讃えるみすゞさんからの応援歌のようです。
垣がひくうて 朝顔は、
どこへすがろと さがしてる。
西もひがしも みんなみて、
さがしあぐねて かんがえる。
それでも お日さまこいしゅうて、
きょうも一寸 またのびる。
のびろ、朝顔、 まっすぐに、
納屋のひさしが もう近い。
「西もひがしもみんなみて、さがしあぐねてかんがえる」、この朝顔が大震災被災者の方々の姿に重なります。大変な苦しみと悲しみの中で、それでも復興を目指して「きょうも一寸またのびる」被災者の方々、「のびろ、朝顔、まっすぐに」と応援せずにはいられません。いつの日か必ず一人ひとりが庇に到達し、やがて軒先が復興という緑のカーテンで覆われることをお祈りします。
ところで、一面の緑のカーテン、表面からは見えないけれど、欠かせないものがあります。それはネットなどの支え。
「水中塩味 色裏膠青」。海水は塩辛いが、塩を見出すことは難しいし、また絵具に膠が混じっていることは確かだが、膠を取出すことは難しい。けれど、水と塩がなければ海水とはならないし、顔料と膠がなければ絵の具とはなりません。
同様に緑のカーテンも表面からネットを見出すのは難しいものです。けれど、ネットだけでは日光は遮れませんし、朝顔だけでは庇に到達できないのです。朝顔とネットがあって、はじめて緑のカーテンとなるのです。
被災者の方々が朝顔ならば、私たちはそれを支えるネットとなりましょう。いつか必ず復興という緑のカーテンが、被災地のみならず、日本中を、いや世界中を覆いつくす日を信じて……。