タイガーマスクが気付いた事
(出典:書き下ろし)
人は誰でも、程度の差こそあれ、成功して余裕のある生活をしたいと思っています。しかし、ひとたび成功して、金銭など物の面でも心の面でも余裕ができ始めたら、次に何を考えるか、人によって選択の分かれる所だと思います。もっと儲けたいと考える人、地位が欲しいと思う人、趣味を楽しみたいと考える人など様々です。
昨年の暮れから今年にかけて、タイガーマスク運動とも呼ばれる社会の動きが話題となっています。文房具や金銭を、児童養護施設や市役所に届ける事が全国的に広がっています。
これは梶原一騎原作の「タイガーマスク」という漫画の主人公“伊達直人”に影響を受けて広がった社会現象ですが、全国の多くの人達の善意が、ランドセルや鉛筆、金銭に姿を変えて、子供達に届けられるという事は全く頭の下がる行ないです。人に物を贈る事は私達の日常の行為ですが、今回のタイガーマスク運動は、何故多くの人々に感銘を与え、広がっていくのでしょうか。
私達の禅宗では、困っている人にお金や物を与える行為を“布施”と言います。布施は三輪清浄といわれて、布施をする人、布施を受ける人、布施の物自体、三つともこだわりのないものである事が求められます。つまり与える側は何か特別の目的を持って与えるわけでもなく、受ける側も別に卑下することもない。そして布施された物自体も、正しく手に入れたものである。この三方向の清らかさが大切な事とされています。
これは簡単なことのようにも見えますが、なかなか難しい事です。タイガーマスクの伊達直人氏も漫画の中で、最初は自分の育った児童養護施設の子達だけを喜ばせる目的で贈り物を届けていました。途中で、「世の中にはもっともっと自分を必要としている人がいる、そのために自分は何をすれば良いのか、自分は何と思い上がっていたのか……」と、真剣に気がつき始める場面があります。観音様の救いと同じような“仏の世界”の布施に気付いたという事でしょうか。だからこそ、今回の全国のタイガーマスクの善意が、素直に私達の心に入り、感銘を与えるのだと思います。
ところで、感銘を受けたお前さんは一体どんな行動を起こすのかと聞かれそうですが……。何かしたいという気持ちは持っております。