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現代世相を見つめて

(出典:書き下ろし)

rengo11.jpg 近年高齢化社会と少子化による人口減が深刻な問題として報道されている。65歳以上の人口が占める割合が50%を超え、社会的共同生活の維持が困難になるとされる「限界集落」が、農村部に限らず都市部にも広がっているという新聞記事を目にすることがあった。
 日本の人口は、2004年12月の1億2,784万人をピークに減少に転じたことが、国勢調査確定値で判明。それに加えて、団塊世代の方が定年を迎え、いよいよ少子高齢化の問題が深刻化の様相を示してきた。右肩上りの経済発展が危ぶまれ、近年は、地球環境の悪化に伴う温暖化も囁かれ、とかく先行の暗い話である。
少子高齢化現象によって、経済や福祉への悪影響が懸念され、このままでは生活水準が低下する状態が日本全体に拡大していくというのだが、果たして、少子高齢化は悪影響ばかりで、得るものは何一つないのだろうか。戦後の国民総生産量の成長によって、物が豊かになり、その反面、心が貧しくなったといわれるが、逆に、物(経済)が貧しくなれば、心の豊かさを取り戻せ、地球環境の大切さを知る機会になりはせぬだろうか。失う物があれば、得る物もあると思えるのだが、如何なものだろうか。
 以前、ブータンという国に行く機会があった。ヒマヤラ山脈の南に位置する人口70万人程の小さな王国は、自然も、人種も日本とよく似ており、チベット仏教を信仰している。
 今から36年前、当時の国王は若干19歳で戴冠式を行ない、演説で国の将来に対する政治指針を示された。「もし、物質的発展の名の下に、伝統的文化が失われるとすれば、それは最も悲しむべきことであり、そうした発展は、是が非でも避けねばならない。大切なのは、国民総生産量(GNP Gross National Product)ではなく、国民総幸福量(GNH Gross National Happiness)である」というものであった。
 今から5ヶ月前、日本の総理は就任後、「最小不幸社会をつくるのが政治の役割と考えている」と会見をした。これはブータン国王の考えと似て非なるものと思うのは私だけだろうか。
 これさえ向上すれば、国は繁栄し、国民は幸せになれると、日本国中が躍起になった“GNP”には、たいした重要性を認めずに歩んだブータンは、今日世界中で一番、国民が幸福を感じる国といわれる。実際に国民は、穏やかな生活を送り、親殺し、子殺し、いじめや強盗といった犯罪は皆無で、動物や自然に対してもやさしい姿を目にした。
 社会学者の古田隆彦氏によれば、江戸時代にも人口減の続く時期があったそうで、異常気象により、経済力が落ちたのが引き金である。そこで何が起きたかというと、人々は、慎ましい生活に改めようとして、物質的な成長より、学問や芸術などへの情熱が高まったというのである。質素倹約は、地球環境にもよい働きをするのではないだろうか。
 論語の「温故知新」-故を温ねて新しきを知る- 先人の智慧は、いい教訓になる。少子高齢化が、あくせく働くより、ゆとりを大事にする社会へと変わる節目になるかも知れない。
 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、百年後の日本の人口は、百年前の4,300万人と推定されるそうだ。もう一度、昔の価値観を見直すことを考えてみるのも、一つの方法と思える。

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