夕焼け小焼け
(出典:書き下ろし)
皆様方におかれましては、お盆の行事もおわり、無事にご先祖様を極楽へお見送りされたことと存じます。まだまだ残暑厳しい日が続いていますが、そんな夏もいつまでも続くわけではありません。やがて、秋の気配が感じられる頃になってまいります。そんな折り、夕方になると思い出す、一曲の歌があります。
夕焼け小焼けで日が暮れて
山のお寺の鐘が鳴る
お手々つないで皆帰ろう
烏と一緒に帰りましょう
中村雨虹作詞、草川信作曲の、大正8年に発表された「夕焼け小焼け」です。童謡としては最も有名なものの一曲といえます。
ところで、宗教学者の山折哲雄氏は、この「夕焼け小焼け」の歌詞の背景には、仏教の真髄、とりわけ『般若心経』の真言が訳されているとしています。
般若心経の最後の部分は
ぎゃーてい ぎゃーてい はーらーぎゃーてい
はらそうぎゃーてい ぼーじーそわか
です。この部分が般若心経の一番大事な部分だと言われています。そこにはどんな意味が隠されているのでしょうか。昭和の名僧と呼ばれた山田無文老師はこの部分を、
着いた、着いた、彼岸へ着いた。
みんな彼岸へ着いた。ここがお浄土だった。
と訳されています。みんな同じなんだと。人はみんな同じところへ帰っていく。偉大なる母のふところへ、おおいなる命へ帰って行く。だからみんなひとりぼっちじゃない。寂しくなんてない。人もからすも、みんなで手をつないで一緒に帰りましょう。ここが帰るべき場所だったんだ。そしてみんな帰っていなくなったその後は、大きなお月様が、星が輝きはじめます。
子供が帰った 後からは
まるい大きな お月さま
小鳥が夢を 見るころは
空にはきらきら 金の星
丸い月や明星は、執著を離れた悟りの境地を示すと言われます。「夕焼け小焼け」にはそんな深い意味がこめられているんだ、そう思うと、あらためて童謡の深い味わいに気付きます。「めざす場所はここだった」と、思いも新たに、口ずさんでみてはいかがでしょうか。