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にごらぬ心

(出典:書きおろし)

myoshin1008a.jpg 今年も相変わらず暑いです。寺の庭では蝉たちが命の歌を唄っています。変わらぬ夏の声です。毎年、季節はめぐり夏が来ますが、その一方で私達の心は同じ場所に留まってはいないでしょうか。

うず巻いて にごらない 滝つぼの水

 相田みつをさんの詩です。水は同じ所に留まると腐ってしまいます。しかし、滝から落ちた水は同じ所に留まらずクルクルとうず巻きながら流れている。私達の心も愚痴ばかり言って留まっていては、心まで腐ってしまいます。「にごらぬ心」で日々の生活に勤めなさいという教えなのです。
 雲門禅師は多くの弟子達にむかって問われました。「これまでの事はたずねないが、今これからどのように生きるか」、「今、これからをどう生きるか」という問いかけであります。すると弟子達は顔を見合わせて何も言えずにいる。そこで禅師はあの有名な一句を示されました。「日々是好日」。禅の言葉です。過去の事ばかり振り返らない、未来の事ばかり心配しない。すなわち今の自分に目を向けなさいという教えです。過去や未来にとらわれない「にごらぬ心で生きなさい」と説かれておられるのです。
 小学校3年生の宮本莉奈ちゃんの詩を紹介いたします。

「川さん」

川さん 川さん どこ行くの?
大きな海まで行くのかな?
クジラに会いに行くのかな?
川さん 川さん おこっているのかな?
ゴウゴウこわい音たてて
ゴミがいっぱい流れているからかな?
川さん 川さん 静かだね
小さなお魚さんと遊んでいるのかな?
川さん 川さん きれいだね
おひさま光って きれいだね
キラキラ ピチャピチャ 気持ちいい

 いつも通る川沿いの通学路を見て書いた詩であります。時には学校へ行きたくない日もあったでしょう。時には嬉しいことがあって鼻歌を歌いながら通った日もあったでしょう。莉奈ちゃんの心が「川さん」で、「川さん」の姿が莉奈ちゃんの心なのです。毎日が同じ風景だと思っていた。実は毎日が違う風景であった。それは莉奈ちゃんが「にごらぬ心」で今を大切に生きていたからこそ、こんなに素敵な詩がかけたのでしょう。
 毎日同じリズムで時は流れます。しかし、同じ一日は過去にも未来にも何処にもないことを、私達は忘れて過ごしています。「日々是好日」今をみつめ、今の心を大切に二度とない人生を過ごしたいものです。
 今、鳴く蝉の声も愛おしく感じることではないでしょうか。


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