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花におもう

(出典:書き下ろし)

 四月、花の季節、華やかな季節です。桜の便りが届きますと居ても立ってもいられずウキウキした気分になります。その桜に限らず、花は文句なしに美しいものであります。 しかし、時に私たちはその花の美しさにすら気がつかない事があります。
 ある学校の先生から聞いた話です。ある日、校長先生が朝礼でお話をされました。「みなさん、校庭の桜が満開です。とても綺麗ですから、放課のときにでも、みてきてください」。これは生徒だけでなく、先生方にも発せられたメッセージでしょう。生徒たちは放課になると先を争って桜の木のところへ走って行きます。「お花、きれいだね」「いっぱい咲いてるね」という歓声が聞こえてきそうです。まるで、子どもたちのために咲いているかのようです。先生方はどうかといえば・・・わざわざ桜をみにいく先生はいなかったと言います。純粋に花を愛でる子どもたち、それに対して、日常の忙しさのせいか、花の美しさにすら気づかない大人・・・。他人事ではありませんが、少しばかり寂しい気がいたします。
 坂村真民さんの詩に「花は一輪でいい 一輪にこもる
命を知れ」(『詩集・念ずれば花ひらく』より)というのがあります。花の美しさを見過ごしている私をハッとさせてくれた詩です。一輪の花にさえ無限の愛をそそいでいこうという坂村さんです。真に純粋な心だと思います。一輪の花に命をみていくのです。花に仏さまをみていくと言っても良いでしょう。花に仏さまをみていくならば、自ずと手が合わさってくる、そういう気持ちになるのではないでしょうか。
 また、菅原道真公に、花にちなんだこういう詩があります。

花は合掌に開いて春に()らず  『和漢朗詠集』

 これは「(仏前に)心から合掌すれば、それこそが心の花なのだから、春になるのを待って開く花を供えるまでもないことだ」という意味の詩です。花はなくとも合掌する心があれば、その心に花が咲く。そこまで一足飛びにいかずとも、さまざまな花が咲き誇るこれからの季節、まずは一輪の花に合掌する心をもってまいりたいものだと思います。

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