運動会の思い出
(出典:書き下ろし)
スポーツの秋といわれるように各地で運動会が行なわれていることでしょう。
私が子供の頃の運動会での一番の楽しみは、家族そろってのお弁当の時間でした。ところが、何年生の時だったでしょうか、学校の先生をしていた両親の運動会の日と私の運動会の日とが重なって、来てもらえないことがありました。私は前日にだだをこね「運動会なんか行かん」と言って両親を困らせました。その時、それを聞いていた祖母がふびんに思ったのか「じゃあ、明日はおばあちゃんがお弁当をたくさん作って行ってあげるから頑張ってね。」と言ってくれました。
しぶしぶ納得した私でしたが、運動会の当日、お昼のお弁当の時間に祖母が作ってくれた重箱を開けてみて驚きました。中にはなんと大好物の「おはぎ」がたくさん入っていたのです。
私のために早起きして、しわしわの手で、私のことを思いながら作ってくれたのでしょう。おはぎを見つめて満足げな私のかたわらで、「昼からも頑張れるように、たくさん食べなさい」と言ってくれた祖母のお陰で、ゆううつだったはずの運動会も、楽しい思い出のひとつに変わりました。今でも、「おはぎ」をいただくたびに、亡き祖母の笑顔が浮かんできます。
仏教で大切にされている実践の一つに「利行」があります。この「利行」は身体や言葉や心の善い行いで人のために損得を離れ、自分のできることを一生懸命に行うことです。
年老いて大変だったでしょうが、孫のために一心に作ってくれた「おはぎ」に込められた祖母の思いを、私は忘れることが出来ません。
自分はいま、多くの方の関り合いのおかげで生かされています。その生かされている幸せに感謝し、この幸せを分け与えてあげられる幸せこそ、自分に出来る「利行」でございましょう。
このごろは家族の会話も少なくなったと言われていますが、家族そろって祖先の話や昔話に花を咲かせ、命のつながり、生かされていることへの感謝を確かめてはいかがでしょうか。