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晴れた日は晴れを愛し 雨の日は雨を愛す

(出典:書き下ろし)

 若葉が鮮やかに映え、薫風漂う好時節から、やがてじめじめとした梅雨を迎えようとしています。梅雨は多くの人にとって、うとましい時季になるのではないでしょうか。たしかに長雨が続くと、気分も何となく沈んでしまうように感じるのは私だけではないでしょう。
 季節に限らず、私たちの人生には、自分の意志によってどうにかなるものと、どうにもならない世界があると思います。しかし世の中がどんなに豊かで便利になっても、すべてを思い通りに生きることは不可能です。
 禅語には有名な「日々是好日」の一句があります。これを常識的に毎日が大安吉日であると解釈すると、とんでもない間違いです。ままならぬ浮き世を、どういう心もちで過ごせば好日になるかを、問うているのです。
 大分市金池町にある万寿寺、足利紫山老師にこのような逸話があります。
 老師は百一才という長寿を全うされたお方であられましたが、常に腹八分を心がけ、乾布摩擦を欠かすことなく、読経と掃除が大好きでした。そして何事にも「有り難い、有り難い」「上等、上等」と合掌の日暮らしを送られていました。
 食事が終わると、本堂のぬれ縁を歩くのが日課でした。そして外をながめ、どんな天気であろうと、「いい雨じゃのー」、「いい雪じゃのー」と心から誉めたのです。
 ある寒い雪の日、その老師の様子を見ていた弟子が、ぶしつけな質問をします。「老師、何がそんなに有り難いのですか。今日のような寒い日に上等、上等といっても、それはお世辞ではありませんか」 すると老師は静かにこう言われたそうです。
 「そんなことは言うもんじゃない。私は見るもの聞くものすべてが、有り難くて上等なものばかりじゃ。それは今のおまえにはわからんかもしれんのー。自分のことばかり考えているものには、わからんものじゃ」
 どうやらこの一語の中に、好日の鍵が握られているようです。
 作家の吉川英治さんは、この「日々是好日」の教えをこのように示しておられます。

晴れた日は晴れを愛し 雨の日は雨を愛す 楽しみあるところに楽しみ 楽しみなきところに楽しむ 

 もうすぐ梅雨です。さて、あなたは梅雨空をながめてどう思われますか。老師のように梅雨を誉めますか。それとも……。

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