幸せの青い鳥
(出典:書き下ろし)
近年、フリーター・ニート・パラサイト、M&A・TOP、ベンチャー企業・IT企業、勝ち組・負け組み等、聞き慣れない言葉の中、極端な二極化が進み、日本人が築き上げ守り続けてきた、謙虚さや思いやりの心がしだいに失われているように感じます。
そういう中、メーテルリンクの戯曲「青い鳥」(堀口大學訳)を読む機会を得ました。何故、「青い鳥」なのかと言うと、五木寛之氏の「いまを生きるちから」の第十章「青い鳥のゆくえ」を読んだからです。そのとき、日本の現状を生み出して来たそのものがこの「青い鳥」ではないか、そして、そこから抜け出すために「本当の青い鳥」を見つけなければと感じたからです。
さて、「青い鳥」のお話は、あるクリスマスイブに、貧しい木こりの兄妹、チルチルとミチルが夢の中で、魔女に頼まれ「しあわせが実現するという青い鳥」を探す旅に仲間たちと出かけます。色々な事件や出来事がありましたが、結局、青い鳥を見つける事ができずに放浪の旅は終わります。そして、二人が目を覚ますと部屋の片隅に昔から飼っているキジバトが青い鳥に変わっていたのです。随分遠くまで探しに行ったけれど、青い鳥はここにいたと気づく……という内容です。そして、本当の幸せとは、遠くに求めるものではなく、自分たちのすぐ身近な日常生活の中にあるのだというお話です。
ところが二人が「幸せの青い鳥は身近にいたのだ」と気づいた瞬間、二人の手から飛び去ってしまいます。なぜ、飛び去ってしまったのでしょう!
「幸せの青い鳥」、これさえあれば幸せになれるという思いにとらわれると、「本当の青い鳥」が見えなくなってしまうからです。二人に、もっと大切なものがあることを教えるため、青い鳥は二人の手から飛び去ってしまったのではないでしょうか。
実際、この「幸せの青い鳥」が飛び去っても、二人の回りには溢れんばかりの幸せ―本当の「青い鳥」―がいるのです。「健康である幸福」「清い空気の幸福」「母の愛の喜び」等、たとえ目で見ることができなくても、計り知れない幸福と喜びに満ちた「本当の青い鳥」がいるのです。
戦後の日本は貧しさの中、「豊かさ」という青い鳥を追い求めて歩んできました。だが、その「豊かさ」をつかみ取った瞬間、青い鳥は手から抜け出し飛び去ってしまいました。いくら捕まえても、捕まえても飛び去ってしまいます。
「豊かさ」とは、「本当の幸せ」とは……。
物やお金の満足では、決して得ることができないのです。一人一人の「やさしい心」「思いやりの心」の中に、「本当の幸せ」が、「青い鳥」が住んでいるのです。
我々日本人はそのことに、少し前から気づいています。しかし、一度つかんだ「物の豊かさ」に負けてしまい目を背け続けているのです。
今月は、お彼岸の月であります。皆さんも、私と一緒に「幸せの青い鳥」をさがす「心の旅」に出てみませんか。