おじいちゃん熱いだろうなぁ…
(出典:書き下ろし)
もう何年も前のことだが、あるお葬式での出来ごとが頭から離れない。地方によって方法が異なるが、うちの地方では、お葬式が終了して、斎場(火葬場)へ向かい、そこで遺体を火葬する運びとなる。 斎場では、遺体を火葬する前に短くお経をよんで、皆が焼香をする。それが終わると、いよいよ遺体はボイラーの中にいれられて点火される。
焼香が終わって、ボイラーの入り口の前に遺体が運ばれた。息を詰めて遺族が見守っている中、台車にのせられた棺がスルスルとボイラーの中へと送られて、鉄の扉がぴったりと閉じられた…ここまではいつもどおりの風景だった。
その時だった。5、6才だと思われる一人の男の子の、ひそひそ声が聞こえた。まわりがシンと静まり返っているだけに、ひそひそ声であるにもかかわらずそれは皆の耳に鳴り響いたのだった。
「おじいちゃんどうなるの?」
そばにいるお父さんに尋ねた。お父さんが小さな声でそれに答えた。
「ふ~ん、おじいちゃん熱いだろうなぁ。かわいそうだなぁ」
ハッとした。「熱いだろうなぁ。かわいそうだなぁ」……。
もう死んでしまった人は熱さなんて感じない、などという大人たちの常識は、この一言で吹っ飛ばされてしまったような気がする。
『かけがえのない命を大切にしよう』…などの言葉を何百回聞かされるより、心にずしりと重く響いた男の子の言葉だった。あるいは『仏』とも呼ばれるべき何かが、その場にいた私達に聞かせたいと考えて、男の子の口を借りて言わせた言葉だったのかもしれない。