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観音山のお月さん

(出典:書き下ろし)

 それはなだらかな雑木林の山で、人々が「観音山」とよんでおりました。山の頂上に小さなお堂があって、そこには観音様がおまつりされていたからです。年に幾度かは人間がお参りにやってくる以外は人気がなく、動物たちにとって豊かな楽園だったのです。
 その観音山の中ほどに草木に隠れるようにして小さな穴があり、キツネの親子が住んでいました。ある日子供たちはお母さんのお乳で満腹になり、眠りこけておりました。お母さんキツネは子供たちの世話でこの2日間何も食べていません。お腹を空かせたお母さんキツネは子供たちの眠っている間に食事をしようとお家を抜け出しました。お母さんキツネは食べ物になる動物はいないかと、全神経を針のように研ぎ澄まして広い観音山を歩き出しました。
 しばらく行くと、草の茂みの間に1匹の子ウサギが通り過ぎるのを見つけました。キツネは足音を忍ばせて後をつけると、子ウサギはそうとも知らず一休みして、後ろ足で体中をこすって綺麗にしておりました。と、次の瞬間、子ウサギの前にお母さんウサギが飛び出して、子ウサギを守るように立ちはだかったのです。キツネとお母さんウサギの目がひたと合って、2匹のお母さんはしばらく睨み合いました。
 お母さんウサギは子ウサギに、「早くお家へお帰り、外へ出るんじゃないよ。」と鋭く叫びました。お母さんウサギの顔はひきつり、目からは涙がこぼれていました。
 キツネがウサギに今や飛びかかろうとした時です。どこからともなく、「お前と同じ子供のいるウサギを殺せば、子ウサギはみなしごになるぞ、お前の子供たちもこうしている間に誰かに狙われているかも知れないぞ。」という大きな声が聞こえてきたのです。キツネはハッと子供たちを思い出して急に不安になり、お母さんの顔に戻りました。

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