文化の日
(出典:書き下ろし)
11月の異称を霜月といい、11月3日は『文化の日』である。
文化とは、「人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果。衣食住をはじめ技術・学問・芸術・道徳・宗教・政治など生活形成の様式と内容を含む。文明とほぼ同義に用いられることが多いが、西洋では人間の精神的生活にかかわるものを文化と呼び、技術的発展のニュアンスが強い文明と区別する。」と、『広辞苑』に記されている。
文明の発達によって人間の生活は便利になってきた。星新一さんのショートショートに価値検査器を手に入れた男の話が載っている。
男は、価値検査器を使い次々と成功を収めるが、ある時、奥さんがその男に検査器を当てると、その男自体には価値がないと表示した。この物語は、文明の発達と人間自体の向上とは必ずしも一致しないことを示している。
文化・文明と反対の意味を持つ言葉は「自然」である。
寒雲幽石を抱き、霜月清地を照らす
(『虚堂録』)
これは、寒雲が、幽石を抱くようにたなびき、霜夜の月が澄みわたる池の水面を照らしている。凛として高潔な晩秋の自然の風景。磨き上げた道人の境涯をたとえた語句である。
人間には先祖から受け継いだ文化がある。その文化をさかのぼっていくと、「自然」に行き当たる。したがって、今日、便利な生活を支えてくれている文明の発達に感謝するとともに、文化の根本である自然に感謝していくことが文化の日の心掛けである。