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おひがん

(出典:『花園』平成1年3月号)

 ◇彼岸会
 彼岸は仏教行事のなかで、インド・中国にみられない日本特有の法要であります。お中日にあたる春分の日は秋分の日と共に暦の上からも昼夜の長さがほぼ同じで暑からず寒からずの好季節でもあります。釈尊の説かれた「中道」の道理に叶っている処からこの日を中心に前後一週間を彼岸会と定めた仏教徒の修行週間であります。
 釈尊は、「中道」の思想を尊び、かたよらない、とらわれない、こだわらないという心で人生をおくることが、到彼岸(理想の人生)の道であると説かれております。

  ◇六つの帆柱
 その彼岸に到るために実践すべき徳目として、六波羅蜜を行ぜよと示されたのであります。即ち布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧であります。
 私たちが、自らの人生を生きようとするとき、何が一番必要であるのかを考え進まねばならんと思います。
 たとえば、船が航海をするとき、何が一番大切かというと、まず羅針盤が正確であるかどうかということでどれだけエンジンが快調であっても、舵をとり航路を修正しながら進まねば目的地に着くことは至難であるように私たちの人生も羅針盤や舵が必要であります。
 現代の社会は、物質文明が先行し、エンジンを快調にふかしてより速く時代を先取りしようと暴走しているかの如き姿ではないだろうか。いま頻りに叫ばれている「心の時代」とは、船でいう羅針盤であり、船を止めて暴走航路を修正しようとする勇気と心のゆとりを指しているのであります。私たちの生活は、いつも何かに執着しています。物や財産や命……大切に思うものをたくさんもっています。釈尊が布施の行を第一となされたのもこうした人間の執着心を離れて他のために施すという慈悲の心が出発点であるからです。
 私たちは仏の教えという正しい羅針盤によって人生の目的が何であるかを見い出し、六波羅蜜行という六つの帆柱を立てて現代社会という最もむづかしい荒海をみずからの人間を生きる目的に向って精進するところに彼岸会の勤めがあると思います。

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