こころを洗う
(出典:『花園』平成9年4月号)
おしゃかさまのご生誕を祝い花御堂の誕生仏に甘茶を灌ぎ、お祈りをさせていただくと、いただいているいのちの尊さをしみじみと胸に感じます。
花まつりは、おしゃかさまのお誕生を祝い龍王が天から香水をふらせたという言い伝えがあり、古くからインド、中国で行われ、日本でも推古天皇の時代(六〇六)以来の歴史があります。
しかし、おしゃかさまは、ご自分以前にお悟りを開かれた数多くの仏さまたちがいらした、天地に如来が御座します、と常に説かれています。
「ありとあらゆる仏さまたちは、みな四月八日の子の刻にお生まれになりました。春と秋は災いや罪がすべてなくなり、あらゆる生命が誕生し、毒気も未だ現れず、寒からず、熱からずもっとも恵まれた時期だからです。だから人々は、諸々の仏さまの功徳を念じ、お仏像を浴するのです」
清浄慧菩薩がたずねました。
「人々は、どのようにして仏像を浴したらよいのでしょうか」
おしゃかさまは答えられました。
「こころを乱さず、信仰を確かめ、努め励む気持ちを起こし、仏さまたちの教えの成就(仏さまと同じ心で暮らす)を願うために、諸々の供養の中でも、最も優れている浴像の法を教えます」と、いま行われている「浴仏」の方法を示されました。
はじめに香湯をお像の上に沐ぐときには、この偈をとなえなさいと教えられたのが、寺院の降誕会に誦まれる浴仏偈です。
「我れ今、諸々の如来を灌沐す、浄智の功徳を以て荘厳したる聚なり、五濁の衆生をして垢を離れしむ、願わくは如来の浄法身を証せんと」
おしゃかさまの崇高で謙虚な御心がうかがえる御教えです。私たちの心の垢を洗ってくださるので、おしゃかさまの御教えを浴仏の香湯に例えて「法水」ともいいます。
灌仏会は、いのちの尊さを念い、わたしたち自身が「心を洗う」大切な機会です。
参照「浴仏功徳経」「摩訶刹頭経」「譬兪経」「法華経」