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蓮花 仏の花は泥の中でこそ育つ

(出典:書き下ろし)

 今年の春も玉泉寺では蓮の植え替えをいたしました。
黒土と荒木田土を混ぜて肥料や煮干しをパラパラと。そこに株分けをした蓮根を入れて、お水をたっぷり与えます。地域に倣った植え替え方は今年も変わらず、土の中から蓮の芽が元気よく顔を出してくれました。

 蓮は仏教を象徴するお花です。蓮は泥の中で育つ植物ですが不思議なことに泥の中から顔を出した芽は、まったく泥に汚れることなくきれいな花を咲かせてくれます。 私たち人間も同じように、迷い、苦しみ、煩悩といった泥の中だからこそ、仏さんの様な心の花を咲かせることができる。それが仏教であります。

 以前大河ドラマで放送されておりました「鎌倉殿の13人」。立場上、悪事にも手を染めなくてはいけなくなった小栗旬さん演じる主人公北条義時に対し、仏師である運慶がこの様な言葉を投げかけました。
 「暫く見ない間にお前さん、随分悪い顔になったなぁ。ただ、まだ救いがある。迷っているからだ。」
 もちろん、脚本の中でのセリフでございましょうが、仏教というのは、迷いの中でこそ悟りが生まれ、苦しみの中でこそ慈悲が育つ。そういう宗教であります。

 京都嵐山にございます大本山天龍寺のご開山様夢窓国師はこの様なお言葉を残されております。

雲よりも高き所に出でてみよ。暫しも月の隔てやはある

 ここで言う雲とは迷いの雲の事。迷いの雲の上に出てみなさい。煌々と照らすお月さんを遮るものは何もありませんよ。迷いの雲の下ばかり捉われているから月が隔てられてしまう。ちょうど蓮の下の泥が全く邪魔にならないのと同じように、雲よりも上にさえ出てしまえば、雲は少しも邪魔にならないで、お月様のような美しい心は常に照り輝くのであります。
ではどうすれば雲の上へと出ることができるのでしょうか。

 モデルでタレントのアンミカさんが以前談話で、このようなお話をされていましたので紹介したいと思います。
アンミカさんが赤ちゃんを授かることができないと分かった時のお話であります。
 「妊娠が不可能になった時、『ごめんね子供を産んであげられなくて』と主人に伝えると、主人は怒って、『子供がいたら確かに楽しい人生だったかもしれない。でも僕は、君と二人だけで過ごす人生も楽しい。右も幸せ、左も幸せ。誰かと比べるのではなく、まず自分が幸せであることが大切だよ。』って主人は言ってくれました。
 子供を育むことも素晴らしいことだけど、まずは自分が自分を大切にできて、幸せであることが人生に於いて大事なのではと考えています。
辛い気持ちを経験した人は、辛い気持ちを持つ誰かに寄り添える。それが人の最も大きな力だから。子供を産むことに精一杯トライした私たち夫婦は、頑張ったからこそ今をポジティブに笑っていられるんです。」

 アンミカさんを迷いの雲から救ってくれたのは、紛れもないご主人の言葉でした。それは、ご主人を想うアンミカさんの優しい心があったから。雲の下に隠れてしまったアンミカさんの優しい心をご主人はすぐさま見つけ出し、雲の上へポンと連れ出したのです。
私たちは本来誰しもがこのお月様のような優しい心を持っております。しかしながら、雲に隠れ泥に覆われなかなか表に出てきてはくれません。ですが、雲や泥に覆われているからこそ、この心は育つのであります。
 誰かの為に迷い、誰かの為に苦しんでいるのなら、それはいつか誰かを照らす月や花になる。この優しい心を育てましょう。いつかきっときれいな花が咲きますように。

 この蓮の花の様な、お月さまの様な優しい心を仏心と申します。

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