ドクターショッピング
(出典:書き下ろし)
コロナ明けとなった今、私たちは以前と同じ生活を満喫できているのでしょうか。
そもそもコロナ前は幸福で、コロナ禍が不幸であったとは限りません。誰しも簡単には幸福を感じることができないから、人は皆な悩み苦しむワケですが、なぜできないのでしょう。
人生を苦しくさせているのは思い込みです。こうするべきだという価値観にかたより、自分で作ったルールにこだわり、さまざまな常識にとらわれているから人生は苦しいのです。私たちが抱えている迷い、悩み、憂い、患いといった苦しみのほとんどは、自ら自分を縛り付けている思い込みによるものです。
そうした思い込みを解き放っていくことができれば、私たちは人生をもっとありのままに愉しんでいけるはずです。
奈良県にある世界遺産薬師寺の管長であった高田好胤和上は、『般若心経』を次のように訳されました。
「かたよらない心 こだわらない心 とらわれない心 ひろく ひろく もっとひろく これが般若心経 空の心なり」
少し深く考察しますと、私たちは六つの力を持って生きています。見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触る、これを五感と呼び、そこに心の働きを加えて六感といいます。この六つの力こそが、『般若心経』で唱える眼耳鼻舌身意のフレーズです。では、痛みを感じるのはどこでしょうか。体に刃物が触れれば痛い。大音量の音楽を突然聴いたら耳が痛い。強烈に辛いものを食べても痛い。太陽の光が目に入っても痛い。過去の辛い経験を思い出した時も心が痛いと感じます。痛みはどこで起きているのでしょう。
多くの人は痛む部分、腰、肩、膝などの症状がある部分で起こっていると思っていますが、実際は脳で起こっているのだそうです。脳は痛みを感じると痛みを取り除きたい。楽になりたいと考え、また痛くなったらイヤだ、楽な状態が続いて欲しいと思い込みます。しかしそう思い込む事で、痛みが脳に記憶されて痛みの慢性化へと繋がる原因にもなるのだそうです。
つまりは思い込み、かたより、こだわり、とらわれこそが痛みの原因であり、人生を苦しくさせてしまっているということになります。
実際に私は背中の痛みがひどく、長年悩まされてきました。あらゆる治療を受け、最終的にたどり着いたのは「心身条件反射療法」というものです。ここで長年の痛みが改善されました。先生はそれまでの私の常識では考えられない、心理療法に近いような不可思議な治療を施しました。
心身条件反射療法によると、「背中の痛みは症状に固執しているためであり、痛みにとらわれて、まだ痛い、まだ痛いと痛みが減ってきているにも関わらず、受け入れられずにいるためです。良くなっているレベルを受け入れる。痛みはあるけれど、痛みがない時間があることを受け入れるのです。」と、このように言葉で治療してくるのです。初めは不信感を抱きましたが、こうしたやりとりを毎回していると、不思議と痛みを感じているのは身体以上に脳で作り出してしまっている思い込みであると気づき始めました。痛いと思い込んでいる洗脳を解いていく。そうしてだんだんと慢性の痛みから解放されていきました。
いつも痛いという思い込みは人生を苦しくさせます。症状に固執し過ぎてどの病院の先生でも治せない、治らない。と自分で思い込んでしまっていたのでした。このように治療先を転々とする状態であることを、ドクターショピングと呼ぶのだそうです。
思い込みは人生を苦しくさせます。それは心だけにとどまらず、時には症状として身体に不調をきたす場合もあります。それではコロナ禍が明けても、どんな時代であっても人生を愉しむことはできません。
かたより こだわり とらわれ これらは全て自分自身で作り出してしまっている思い込みです。それに振り回されて自ら人生を苦しくしてしまっているのです。
そんな時こそ『般若心経』です。
かたよらない心 こだわらない心 とらわれない心 広く広くもっと広く ひろく ひろく もっとひろく これが般若心経 空の心なり