涙 涙 涙 の三つの話
(出典:「瑠璃燈」38号)
第一話
インド洋にシャープで美しい青色の“美形アジ”がいます。“カスミアジ”という名で体長が八〇センチくらいになります。
ダイバーが目撃したという記事が新聞に掲載されていました。老成魚の一匹がふらふらと泳いでいる所へ若魚三匹が現われ老成魚を支えました。沈降していることに気が付いた老成魚は、気を取り直しゆっくりと又泳ぎ始めました。しかし、力なく沈んでいきます。若魚はあきらめないで支え続けるのですが、ある深さの所までくると沈んでいく老成魚を見送ってその場を離れていったそうです。
大漁だ 濱は祭りのようだけど 海の中では何萬の鰮の弔いをするだろう
という、金子みすゞの『大魚』の詩の一説を思い出し、魚も人と同じように弔いをし、その涙は海の水に溶け込んでいるのだろうと思いました。
第二話
青森県の三内丸山遺跡で発見された「櫛」が現代の技術をもってしても作れないことを知り、現地へ見学に行ったときのことです。目当ての「櫛」は拝見出来ませんでしたが、案内の方の埋葬の話に深い興味をもちました。若くして亡くなった人は壺の中に坐葬して祀られ、埋葬場所もより住居に近い所にされるとのことでした。
この壺は母親のおなかを表しているそうです。壺は食料などの保存容器でもあります。保存されたものは壺から取り出され、食料などに生まれ変わります。一種の再生装置のようなものだと思います。そういう壺に入れて埋葬されることに、早く戻ってきてほしいと思う家族の強い再生の願いを感じました。
又この壺の中には花の化石も確認されています。現代と同じように花を供えて埋葬されていたことがわかります。杜甫の『春望』の「感時花濺涙」という詩の一節は、時に感じて花にも涙を濺ぐ、と広く解釈されていますが、時に感じて花も涙を濺ぐ、という解釈もあります。花も涙することがあるのだと思います。
第三話
“上を向いて歩こう”という坂本九さんのヒット曲があります。作詞の永六輔さんがあるデモに参加した帰り道、虚しさ、悔しさで涙が止まらなかった経験を詩にしたものということです。我慢してこらえて涙がこぼれないようにと歯をくいしばっている時の心情が伺えます。
人は苦しいとき、虚しいとき又うれしいときにも涙をながします。魚も虫も鳥も花も、皆同じように生きていると思うのです。泣くときはしっかり泣いて生きていきたいものです。