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落書き写経

(出典:書き下ろし)

 皆さまは、写経をされた事はありますでしょうか?もし近所のお寺などで写経のご経験がおありでしたら、ご教授頂きたいと思います。あなたは何のために写経をなさいましたか?
 ご先祖様の供養のため、あるいはご自身の修行のつもりで、写経すると心が落ち着くような気がして、何となく面白そうだったから・・・色々理由はおありでしょう。もちろん、写経に理由なんて必要ありません。書き写した字の綺麗さも、書く姿勢の正しさも必要ありません。必要なのはたった一つ、あなたの「写経をしたいと思う心」だけです。

 白隠禅師の『高塚四娘孝記たかつかしにょうこうき』にこんな逸話がございます。浜松に四姉妹が両親・祖父と暮らしておりましたが、両親が相次いで病で亡くなってしまいます。悲嘆に暮れる姉妹たちが、両親の供養のために、と思い立って始めたのが写経でした。しかし末の妹は6才、漢字はまだ書けません。そこで、振り仮名つきの経典を祖父に買って貰い、ひらがなでお経を書き写しました。―――こうして完成したひらがなの法華経は、白隠禅師をおおいに感激させ、白隠禅師は「古今無双の大善行」であると四姉妹を讃えたのでした。

 このお話には、写経の本質が現れているような気がいたします。両親を失った悲しみを乗り越えようとする心は、大人でも子どもでも何ら変わりません。「亡きお父さんお母さんの為に何かしてあげたい」という子どもの心は、写経から漢字という形さえもなくしてしまいました。「外観だけで中身を伴わないもの」や「形が間違っていれば中身も否定されてしまう価値観」がはびこる現代において、本質を捉える大切さを教えてくれる話だと思います。「ひらがなだからと言って軽んじてはならん!この子たちの供養は、どんな多額の寄進より遙かに勝っているのだ!」白隠禅師もこう書いておられます。

 私も『高塚四娘孝記』がきっかけで、瑞雲寺で法華経の写経を始めてみました。誰でも―――四姉妹のような子でも写経ができたらいいな、と考えまして。流石にひらがなでテキストを編集するのは無理でしたので漢字ですが、お墓参りの帰りやお年忌のついでに、色々な方が写経して下さいます。ある時は老夫婦がお二人で一緒に、またある時はママの膝に抱っこされた子が、一緒に筆ペンを取っていました。またある日の夕方に本堂を片付けますと、簡単な「一」「大」「日」の文字だけなぞってあり、写経用紙の隅にネコの絵の落書きがありました。大人から子どもまで、大勢の方により書き写された法華経は、きっと書いた方々へ幸福をもたらしてくれることでしょう。

法華経の法師品ぼんには、「法華経を書写する者は、衆生を憐れむが故にこの世に生まれて来た大菩薩であり、それゆえに如来によって護られる」とあります。また方便品では、「子どもが悪戯で、指で仏像を描いただけでも、それは立派な仏道である」と説きます。高塚四姉妹も瑞雲寺で写経された方々も、みな菩薩、すなわち仏様のタマゴです。皆さまもお気軽に、形に囚われずに写経にチャレンジしてはいかがでしょうか。

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