WEB版 絵解き涅槃図
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《法話》獅子
獅子は俗に「百獣の王ライオン」と言われます。仏教でも例えば、『無量寿経』には須弥山王と説かれ、獣の中の王を意味しています。お経の中でもすでに同様の意味を持つ言葉が存在していたのです。
また禅の世界でも「優れたもの」の形容で使われることが多いようです。「獅子窟」は優れた僧を育てる禅の道場に例えられ、「獅子吼」は、仏の説法を指し、その素晴らしさに誰もが耳を傾けるといいます。
道場で修行中の頃、老大師のお供で京都に出かけた時の話です。私達が待っている新幹線の反対側のホームに和尚さんが頭陀袋首からではなく肩に掛け、手をブラブラさせて歩いています。その姿を見るや老大師は、「和尚たるもの頭陀袋を肩掛けし、叉手もせず手をブラブラさせて歩くとは何事だ!威儀即仏法(威厳のある行儀、生活がそのまま仏法)と言うではないか。ああいう姿は真似してはいかん。」と。若き修行僧の私にとって、まさしく「獅子吼」そのものでありました。今もって頭陀袋を肩掛けするなんてとんでもない姿と心得る次第です。
しかしある日、肩こりがひどくなり背に腹はかえられない事態に陥るようになりました。そこで老大師のもとに赴きこう訴えたのです。
「私は(中略)こういう言葉を直接頂きましたので、(中略)、ですから肩こり予防の為にも、今後は頭陀袋を中学生が通学カバンを掛けるようにして、なおかつ頭陀袋本体はお腹の上あたりに置きたいのですが。」
「ふむ、威儀即仏法の心構えが常にあればそれもまあ良かろう。それはそうとお前さん、さっきこの部屋に来る時、なぜ手をブラブラさせてここに来たのかね。」
「……。」
「獅子哮咆すれば百獣脳烈す」(優れた禅のお師匠様の一言一句の偉大さを喩えたもの)という禅語もあります。「獅子窟」と「獅子吼」、様々な獅子に導かれ今日の私がありますが、「果たして今の私は優れた僧に育っているだろうか」と問い直している今日この頃です。
新山 玄宗(愛媛・福成寺住職)